タイトル通り、不定期更新のブログです。 気が向いたとき、更新すると思います。 内容としては、オンラインゲーム「トリックスター」「ラテール」などを中心とさせて頂いております。(時々日常のことなども書くかもです)

れあちーのきまぐれにっき

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アクアリース攻防戦 第三章

  1. 2009/06/06(土) 02:33:47|
  2. TS版SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
はい、長らくお待たせ致しましたれあちーです(ぁ






ほんっとうに、お待たせ致しましたっ!!





ようやくラテも一段落が付き、私の体調の方も改善致しました。





耳鳴りがなかなか治らなかったから焦りましたが、何とかそっちも落ち着きましたよー。





色々とご迷惑をお掛けしましたm(_ _)m







さて、今回の第三章ですが、非常に、長いですっ(ぁ






本当に長いので、どうか覚悟して下さいっ!!(ぁ





そして、今回から、TSの方には存在しないオリジナルキャラ達も大量に登場しております。




そういうのが苦手な方は、どうぞご注意を。







では、続きをどうぞ(`・ω・´)ノ






















「これはこの島に住む魔物達と、それを荒らす人間達との戦いだ。戦争をしよう、冒険者諸君。そして、勝った方がこの島を支配する」
ゴーストブルーから中継されたテレビの中で、金色の髪を持つ狸族の男は、声高らかにそう宣言した。
その言葉が、どれ程街の人達を恐怖のどん底へ突き落としたのだろう。
どれ程の怒りを誘ったのだろう。
俺達はただこの島で、生きていたいだけなのに。
確かに俺達が生きる為には、犠牲は出る。魔物達を虐げてきたという事実は、変わる事はない。
だが、それと同じだけ、こちらにも被害は出ている。
殺し、殺され、奪い、奪われ……いつまでも続く、憎しみの連鎖は途絶える事もなく。
繰り返し続ける事は愚かな事だとは思う。だが、言葉を交わし合えない俺達には、和解の兆しなど解る筈もなく。
そうして、また、連鎖を繰り返し続けていく……
「……俺は、第一防衛ラインの守備、か」
長蛇の列を作る対策本部で、受付をしているメガロ社員のリサから渡された役割表を一瞥し、俺は一人呟いた。
「そっか。やっぱりみんな、別々になっちゃうのね……」
私はルビーちゃんと一緒だけど……と、俺の持つ役割表を隣から覗き込んだ槙宮が残念そうに肩を落とした。
「まぁ、それは仕方ないさ。……それぞれ、出来る事と出来ない事があるからな」
そんな槙宮の肩を叩きながら、ミュウラーは彼女を宥めた。それにルビーも同意と頷き、
「……そうですね。私達も、出来る事を精一杯こなさないとですしね」
と、にっこりと穏やかな顔で微笑んだ。
俺は第一防衛ライン……つまり、外壁の所だな。最前線での守備にあたる事になる。
槙宮とルビーは、後方での支援と、救護活動が主な仕事のようだ。
やはり、貴重な魔術士だから戦力は最後の最後まで取っておきたいのと、回復魔法を使える事が主な理由だと思う。
そして、残されたミュウラーは、崩れた洞窟の復旧作業の方へと駆り出される事となった。
やはり、外壁の上からの守備になる為に、遠距離攻撃を持たない冒険者は、そちらでの活動となるらしい。おまけに剣士であるミュウラーは、腕力もある。大半の一般市民もこちらで洞窟の復旧作業となるのだが、力手はいくらいても足りないくらいだ。
外壁での守備も大事だが、洞窟が復旧しない事には俺達に明日はない。
こちらから退避する事も、救援を要請する事も出来ないのであれば、俺達は押し寄せる魔物達によって踏み潰されるだけだ。洞窟の復旧作業は、一番重要な仕事と言えるだろう。
だが、どうもミュウラーはあまり気乗りではないようだ。
僅かに沈んだ顔をしている所を見ると、自分も最前線で戦わなくて大丈夫なのか、という不安があるからなのだろうと思う。
「ま、何にせよ、みんなで生き残るんだ。そっちは頼んだぜ?」
そんなミュウラーへ、安心させるように笑いかけてみる。それにミュウラーは僅かに苦笑を浮かべた後、真剣な瞳で俺を見据えた。
「ああ、お前も……死ぬなよ」
「当たり前だ」
ミュウラーの言葉ににやりと笑い返し、俺は拳を上げて見せた。それにミュウラーは俺の意図を理解したのか、軽くごつんと拳をあて返してきた。
これはある意味、誓いなのかもしれない。
みんなは必ず俺が守る。……いや、俺一人の力なんてたかが知れているか。
俺達が守る……だな。集まった冒険者達は皆、守りたいもの、譲れないものの為に命を賭けているのだ。俺も、そんな中の一人に過ぎない。
俺はみんなに笑いかけると、軽く手を挙げ、また後で、と踵を返した。
明日の朝には、このアクアリースは戦場となる。それまでにやらなければいけない事はたくさんある。
俺は一歩一歩、踏み出す足に力を込めて、自分のやるべき事を成す為に、目的の場所へと歩き出した。









アクアリース攻防戦 ~名も知らぬ彼らの英雄譚~
第三章 前に進み行く者の名は








ミュウラー達と別れ、俺は一人、守備隊の集合場所へと辿り着いた。
先程、クア村長が演説を行った中央広場には、百名近くの冒険者達が既に集まっていた。
俺は手に持っていた役割表を眺め、自分が配属とされた部隊を探した。
どうやら、十人でひとつの部隊となるようで、その中の一人がリーダーを務める。そして、更にその上に冒険者達のリーダーとなる者がいて、守備隊を統率しようというらしい。
まぁ、元々好き勝手生きてきた冒険者達の集まりだ。
いきなり部下になれ、と言われても、はいそうですかと納得出来る者は少ない。
そこで役に立つのが、メガロカンパニーで登録した冒険者証。これには冒険者としての能力をわかりやすくする為に、ランク付けがされている。
ランクはそれぞれ五つに分けられていて、上から順に、SS、S、A、B、Cとなっている。
それぞれに昇格試験があり、それに受かった者だけがランクを上げられる。ランクが高ければ高い程、依頼も増えるし、依頼人の信頼も勝ち取り安いというものだ。
ちなみに、現在、俺やミュウラー達はAランクに属している。
俺は辺りをきょろりと見回し、自分の部隊を探した。
「……あっれー?ラフィ君?」
「え?」
と、唐突に背後から甲高い少女の声が俺の名前を呼ぶ。それに俺は驚き、そちらを振り返った。
「……メノー……さん?」
そこに立っていたのは、美しい金色の髪を持った猫族の少女だった。大きな桃色の瞳を更に大きくして、俺を見つめるその少女、メノーはきょとんとした顔を向けている。
「珍しいね、一人だなんて。……他のみんなは?」
僅かに小首をかしげ、きょろりと周りを見回すメノー。それに俺はただ苦笑を返し、
「こっちに配属されたのは俺だけなんだ」
他の奴らは違う場所だ、と肩を竦めてみせると、ふーんとメノーはそれ程興味がないのか、ただそれだけを返してきた。
「ラフィ君、どこの部隊?」
メノーはひょいっと俺が持つ役割表を手に取ると、ぴらりと紙面を眺めた。紙面を一瞥した後、僅かに瞳を大きく見開いて俺を見ると、メノーはにっこりと微笑んだ。
「みんなー、最後の一人、見つけたよー」
「……え?」
すっと、メノーは明後日の方向に手を挙げて見せ、そちらにいる人物達に声をかけた。
最後の、一人……?
俺は意味が分からず、メノーを見ると、メノーはにっこり笑って俺の手を取ると、人混みをかき分け、先程声をかけたであろう人達の前へと引っ張っていった。
「……最後の一人は……貴方ですか」
メノーに手を引かれ、数人の冒険者達の前へと連れ出された俺を一瞥し、燃えるような赤い髪を持つ狸族の青年は、僅かに瞳を細めてみせた。
その姿に見覚えのあった俺は、脳裏をふと、嫌な記憶が過ぎ去るのを感じた。
この狸族の青年、ヴァレフとそしてこのメノーは、それなりに名の売れた冒険者コンビだ。
……どう、名が売れているか、というのは……まぁ、仕事が出来る、という事でもあるのだが、依頼遂行の為にはどんな事も平気でやるという事で一部の人間には有名な二人なのだ。
普段は当たり障りのない柔和な顔立ちで、世間を渡り歩いているヴァレフだが、その実はどこまでが本心なのか分からないというのが、彼の怖い所だ。
メノーに至っては、面白ければ何でも良いという厄介な性格の持ち主で、善悪の観念が薄いらしい。
俺も数度、依頼がかち合った事があり、色々あった……
全面から対決した事も、共闘した事も……ホント、色々あったな……
まぁ、そんな経緯があり、この二人とは顔見知りとなったのだ。
「ラフィさんだ。こんにちは」
と、そんな二人の影に隠れていたもう一人の人物は、俺の姿にほわりとした笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げてきた。つい昨日、モンスターギルドで出会った少年、ヴェンレクスだ。どうやら、俺は彼らと同じ部隊に配属となったらしい。
普段はヴァレフとメノーはコンビとして動いているのだが、時としてこの少年、ヴェンレクスとも行動を共にしている。最近では、一緒の所をよく見かけていたしな。
昨日も一緒だと言っていたから、いるんだろうとは思っていたけど、まさか、同じ部隊になるとは……
まぁ、全く知りもしない冒険者といきなり組んでも、連携がしにくいだろうという、クア村長達の計らいなのだろう。最も、元々一人で配属された俺の場合は、適当に放り込まれたのだろうけど……
「……最後の人も合流したみたいだねぇ」
と、そんな俺の背後に、雑踏に紛れて現れた狐族の女性が、僅かに間延びした口調でそう声をかけてきた。いきなり背後に現れたようなその錯覚に俺は驚き、その人物を見た。
青いコートに身を包んだ狐族の女性。銃を背負ったその女性は、眼鏡の奥からにっこりと俺に微笑みかけた。
……この人、なんかおっとりしてるけど、強そうだ。俺は肌で感じる相手の存在感に、その実力を思い知らされるのを感じた。
「お姉ちゃん。何処行ってたんだよ?」
と、ヴェンレクスの側に座っていた、こちらもこの女性と同じく狐族の少女が、女性に声をかける。どうやら、この二人は姉妹のようだ。どことなく、顔つきも似ている。
「あはは、ごめんねぇ。お姉ちゃん……とろいから、迷子になっちゃってー」
怖かったよー、なんて言いながら、その女性は少女に抱きついた。……強そうな人なのに、なんか、気弱……とでもいうのだろうか。
妹に抱きつき、すりすりと頬ずりしているその様子に、僅かに面食らいながら、俺は呆然とその二人を見つめてしまった。
「……なんだよ、最後の一人もガキじゃねぇか」
低い男の声が唐突に降りかかり、俺はそちらへと視線を走らせる。雑踏の中でもお構いなく、ぷかぷかと煙草をふかせている緑の髪の獅子族の男は、じろりと俺を一瞥した。
こいつ、獅子族の癖にヴァレフに次ぐ身長の持ち主だ。獅子族の中でもかなり大柄なタイプだ。……く、羨ましい。
「……しかも、てめぇ、“赤き眼の民”かよ」
僅かに眉根を寄せて、その男は俺の姿にケチをつけ始めた。それに、俺は条件反射で男を睨み付けてしまった。
「……アルビノだから、何だって言うんだよ」
「別に。……ただ、ついてないなって」
「……あんた、喧嘩売ってるのか?」
今度こそ本格的に睨み付けながら、俺は男を見上げた。初対面の奴に対して、いきなり喧嘩ふっかけてくるとは、一体何考えてんだ、この男。そんなに、アルビノ種に私怨でもあるのか?
感情の読めない瞳で睨み返してくる男を睨み付けながら、俺達の周りに不穏な空気が流れるのを感じた。そんな俺達を心配して、ヴェンレクスがおろおろしている。
「はいはい、やめ、やめーーーっ!!」
と、そんな俺達の空気を壊すように、甲高い声が唐突に割って入ってきた。
それに俺は驚き、声の主を捜すようにきょろりと辺りを見回したが、姿が見えない。俺は疑問に思い、僅かに視線を下にずらしてみた。
「何だよ、いきなり出会い頭に喧嘩始めようとして……血気盛んな奴らだねぇ」
灰色の長い髪を無造作に垂らし、龍族特有の羽根耳をぱたぱたと動かして、龍族の少年が俺達を見上げていた。歳は、12、3歳程……だろうか。
こんな子供まで戦うのか、と僅かにぎょっとして、俺はその少年を見つめた。
龍族は俺達よりも長寿ではあるが、成龍になるまでは俺達とほぼ同じ成長速度なのだ。
俺の幼なじみも、俺と同じ歳だが、同じくらいの外見をしている。あいつも、まだ成龍じゃないからな、と幼なじみの龍の事を思い出しながら、俺は少年を見下ろした。
「むむ、今、子供扱いしただろっ!」
「……い、いや……」
そんな俺の視線に気がついたのか、僅かにむっとしたような表情を浮かべ、その少年はじろりと俺を見上げてくる。それに俺は僅かにぎくりとしながら、言い淀んだ。
「これでも、今年17になるんだからなっ!子供扱いしないでよねっ!」
ぷんぷんと頬を膨らませ、少年は俺を見上げてくる。そっか、今年で17か……………って、え、17だってっ!?
俺と同じ歳かよ、と僅かにぎょっとさせられて、俺は驚いた瞳を少年に向けた。
それに少年は満足したのか、えっへんと胸を張ってみせる。
信じられない。外見はほとんど子供といってもいい外見なのに、俺と同じ歳だなんて……
俺はまじまじと少年を見下ろしてしまった。
そんな俺達のやり取りに呆れたのか、男はくだらないと溜息をつき、背中の銃を背負いなおした。どうやら、この少年に毒気を抜かれたようだ。
「はいはーい、そこまでだよぉ。いまのうちにちょっと自己紹介でもしようか、皆さん」
パンパンと、僅かに手を叩きながら、自らの方へ注意を引かせ、狐族の女性は穏やかな表情で笑いかける。それに俺達は彼女へと視線を向けた。
「えっと、まずは私から自己紹介するねぇ。私の名前は、リラ。一応、この部隊の隊長を任されてます。冒険者ランクはSだよぉ。……で、この子は私の妹。リノちゃんでぇす」
ゆったりと喋るリラと名乗ったその女性は、隣の少女の頭をぽんっと撫でながら、にっこりと微笑んだ。やはり、この人が俺達の隊長なのか。
先程感じたただ者じゃない雰囲気は誤解ではなかったのだと、改めてリラの凄さを感じた。
「……リノだ。まぁ、こんな姉だが、隊長として立ててやってくれ。私の冒険者ランクはBだ。まだまだ至らない所はあるが、魔物共にやられるつもりなどないから、全力で戦うつもりだ」
リノと名乗ったその少女は、きっぱりとした口調で自己紹介した。思いの外、しっかりした事を口にする妹だ。やはり、姉が何処か抜けている……いや、おっとりしていると、下がしっかりするものなのだろうか。
そんな事を考えていた俺の思考を打ち切るように、龍の少年がぴょんぴょんと挙手しながら、話し始めた。
「はいはーい、僕、ヘイゼルー。冒険者ランクはCだよ。僕、あんまり魔力強くないから、回復面で補佐するからねぇ」
元気に飛び跳ねながら、ヘイゼルと名乗った少年はにっこりと笑う。……うん、年齢は同じでも、動作は十分に子供だと思う。だから、子供だと誤解されても、仕方ないよな。
先程、子供扱いした自分を棚上げしながら、ヘイゼルの自己紹介を聞いていた。
「……は、自己紹介なんて、くだらねぇ。俺はパスするぜ」
と、くわえ煙草の男は、面倒くさそうに紫煙を吐き出した。それにヘイゼルは物怖じする事なくその男を見上げた。
「何か、そんな事言ってると、真っ先に死にそうだよ、おぢさん」
ヘイゼルの容赦ない言葉が男を襲う。俺はあまりの言葉に、一瞬吹き出しそうになったが、何とか耐えた。これ以上、この男と険悪になるのは、避けたい事態だ。
「だ、誰が、おじさんだ、このガキっ!」
「えー、おぢさんじゃーん」
あまりの言葉に、流石の男も怒ったのか、ヘイゼルを怒鳴りつける。だが、物怖じしないヘイゼルは飄々としている。ある意味、すごい奴だな、ヘイゼルって。
「……たく、付き合いきれねぇぜ」
ちっと僅かに舌打ちして、男は相手なんかしてられねぇと、ヘイゼルから離れた。
「せめて、名前だけでも教えてくれますかぁ?」
そんな男へ、リラは邪気のない笑顔を浮かべ、問いかける。流石に隊長からの言葉では男も無視出来ないのか、僅かに舌打ちしながらその口を開いた。
「……ラセットだ。……だが、勘違いするなよ。俺はお前らと馴れ合うつもりなんかねぇからな」
特にお前とはな、と視線だけで俺を睨み付け、ラセットと名乗ったその男は無言の圧力を俺に飛ばしてくる。どうやら、相当アルビノ種が嫌いらしい。
まぁ、この外見の事で謂われのない中傷や侮辱を受ける事は少なくないから、もう慣れてるけどさ。……あまり良い気分ではない事は、確かだけど。
解り合えない人はいるんだと、そんな諦めはいつだって俺の中にある。
幾度となく、人を信じては裏切られて、それでも、人と生きたいと望む。けれどそれでも、共に生きられない人は多い。この人もそんな一人なのかと、僅かに心の何処かで失望の念が浮かぶのを感じながら、俺はその視線を無視した。
「じゃあ、今度はあたしの番ね」
そう言って、メノーは嬉々として自らの自己紹介を始めた。話をするのが大好きな人だから、人と馴れ合うのも早い。羨ましい特技だと、常々思う。
こちらの面々も、一通り簡単に自己紹介をし終わった所で、リラがおもむろに俺達四人を一瞥した。
「……んーっと、じゃあ、自己紹介も終わった事だし、皆さんの中から副隊長さんを決めさせて貰うねぇ」
リラの言葉に、俺は僅かに眼を見開き、彼女を見た。ホントに簡単な自己紹介しかしてないのに、いきなり副隊長を選別するというのだろうか。
「……その前に聞きたいんだが、後二人、いるはずだろう?姿が見えないが……」
俺はふと疑問に思い、リラに問いかける。部隊は十人制だ。俺達は八人しかいないけれど、後二人はどうしたのだろうか?
それにリラは、あーと小さく零し、あははと笑ってみせた。
「そっか、君は一番最後だったもんね。あのね、うちの隊は冒険者は八人で、残り二人は後から志願してきた一般市民の人が加わる事になってるの」
だからまだ決定してないんだ、とリラは苦笑を浮かべてみせた。
なるほど、だから俺で最後の一人とメノーは言ったのか。
ようやく納得した俺は、話の腰を折った事を謝罪し、リラは副隊長選びを再開した。
まぁ、順当に行けば、ランクから決める事になるだろうし、俺とヴァレフとメノーとヴェンレクスがリラに続くAランクだから、俺達四人の中から選ぶのだろう。
実力的に言えばヴァレフが順当な所だろうなと、俺は一人予想を立て、リラの言葉を待った。
「……えっと、じゃあ、君にお願いしようかな」
俺達をまるで値踏みするように眺めていたリラは、おもむろに俺の肩を叩き、にっこりと微笑んだ。
……はい?今、なんて言いました?
俺はいきなりの事に驚き、リラを見た。
「え、何で、俺なんだよ?俺より、ヴァレフさんの方が実力的に……」
上なんだぞ、と矛先をヴァレフに向け、俺はリラに問う。それにリラはにっこりと微笑んだまま、ヴァレフを見上げ、
「確かに実力は狸さんが貴方達の中で一番強そうだと思うけど、狸さん、そういうタイプじゃないでしょ?」
と、はっきりとそう口にした。それにヴァレフも、あははと柔和な顔立ちで穏やかに笑いながら、当たってますねぇ、なんて和やかに言っている。
た、確かに、ヴァレフはどちらかというと隊の為に何かするって言うタイプじゃないよな。
自分の為か、メノーの為以外には案外無頓着な所があるヴァレフでは、隊を任せられないとリラは考えたのだろう。だが、一目見ただけでそれを判断するとは、この人、もしかして色々鋭いのか?
「じゃあ、あたしはー?」
と、今度はメノーが面白半分にリラに問う。それにリラはんーっと、僅かに考えたように頬に手を当てた。
「んー、猫さんは、なんか元気な人っぽいから、突っ走って行っちゃいそうだなーって。お隣の獅子さんは、協調性の強そうな人だから、みんなに流されちゃいそうかなーって。だから、消却法で、君♪」
他の二人を選ばなかった理由をあげながら、再びリラは俺に笑いかける。
なるほど、消却法ですか……それで選ばれた俺は、一体何をしろって言うんでしょうか……
僅かに複雑な気持ちになりながら、リラを見た。
「まぁ、副隊長って言っても、特にやって貰う事もないと思うけど、一応決めておけって事だから、お願いね」
ぽんっともう一度俺の肩を叩きながら、リラは正式に俺を任命してきた。
まぁ、俺なんかで良いというのであれば、引き受けるけど……俺の事、快く思ってない奴もいる訳ですが。
僅かに俺はそちらを伺うように、視線を仏頂面で煙草をふかせているラセットへと向けた。
「あん?何だよ」
「……いや、別に……」
俺の視線に気がついたのか、じろりとした瞳を返されて、俺は僅かに返答に困った。
「ラセットさんも、それでいいかなぁ?」
と、リラがそんな俺に助け船を出してくれた。それにラセットは隊の事に興味はないのか、
「別に、あんたがそう決めたんなら、それでいいんじゃね?」
と適当に応えながら、紫煙を吐き出している。
まぁ、それでいいなら、いいんだけどさ。
特に反対意見も出る事なく、結局俺が副隊長という事に決定されてしまった。
俺なんかで良いのかなぁと、疑問に思いながらも、まぁ、決められてしまった以上、やるしかないだろう。諦めにも似た気持ちを抱えながら、気を引き締め直さないといけないなと、肝に銘じた。
「はいはーい、お集まりの冒険者さん達、こっちに注目して下さーーーーい!」
と、広場の中心に位置する台の上から、少女の声が響く。何事かとそちらへ視線を向けると、マイクを手にしたセフィーラと、その他、数人が舞台に立っていた。
「作戦参謀に任命されたセフィーラです。これから、皆さんの隊長となる方をご紹介しますー」
スピーカーを通して、セフィーラの声が広場全体に響き渡る。セフィーラの言葉に、舞台に立っていた羊族の女性が、すっと一歩前に踏み出し、その姿を俺達に見せる。
彼女が、俺達冒険者の隊長なのか?
全身を真紅の色で統一したその出で立ち。目の覚めるような鮮やかな赤い髪を揺らし、その女性は俺達を真っ直ぐ見据えた。
「彼女は、レスター・スカーレットさんと言いまして、貴方達の中で、唯一のSSランクの方です。こちらからの判断で、彼女を守備隊の最高司令官として任命致しました」
あんな華奢な女性がSSランクだって?
俺は舞台の上に立つ女性を見つめ、信じられないと我が目を疑った。
Sランクまでは、順調に進めば案外早いものだとは聞いているが、SSランクに至る者は早々いない。どうやら、普通の昇格試験だけでなく、特別な何かが必要らしく、そのSSランクの壁は想像以上に厚いと聞く。
俺も実際、SSランクの冒険者を見るのは初めてだ。
セフィーラからマイクを受け取ったその女性は、俺達に挨拶するようにその小さな唇を開いた。
「えー、先程ご紹介されました、レスター・スカーレットと申します。SSランクは私しかいないという事で、クア村長より貴方達の隊長に任命されました。私などで務まるかは分かりませんが、精一杯頑張りますので、皆さんもどうか私に力を貸して下さい」
女性らしい可愛い声で挨拶をするレスターの姿に、冒険者達は不安を露わにする。
外見と同様に、大人しそうなその姿に、本当にこの人で大丈夫なのか、と集まった冒険者達は口々に呟き始めている。
確かに、SSランクという事はすごい事だが、それだけではどうにも不安を感じてしまう。
実力はきっとあるのだろうとは思うが、本当に大丈夫なんだろうか。
ざわざわと騒ぎ出す冒険者達の空気は、すぐに広場中に浸透した。
「……と思いますので…………って、皆さん、私の話聞いてます?」
レスターの挨拶などそっちのけで、あんなので大丈夫なのか、と口々に囁かれている。
その様子を見ていたリラは、僅かに苦笑を浮かべた。
「あー……これはまずいねぇ。レスターがキレるかも……耳、塞いでおいた方がいいよ」
リラはレスターの事を知っているのだろうか。くすくすと苦笑しながら、耳を塞ぐリラの姿を見て、俺もその忠告に従って、偽物の兎耳の上から自分の耳を押さえた。
ひそひそと零される言葉はどんどんと増えていき、広場全体がどよめき立っていた。
レスターの存在など一切無視されているこの状況は、確かに彼女にとって好ましいものではないだろう。
と、そんなどよめきの中に混ざって、小さな詠唱の言葉が聞こえた気がして、俺ははっとして、レスターを見た。
「てめぇら……ごちゃごちゃごちゃごちゃと、いい加減にしろーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
レスターの叫びと共に、俺達の上に光の閃光が駆け巡り、その光は容赦なくこちらに向かって落ちてきた。どうやら、先程の詠唱はやはりレスターのものだったらしい。
雷鳴を轟かせ、十数本にも及ぶ雷が広場に降り注ぐ。その雷を避けようと、冒険者達が地面に這い蹲ったのだが、俺は気がついた。
レスターは本気で当てようとしていない、と。
リラやヴァレフ達もその事を理解しているのか、平然と立ち尽くしている。
その証拠に、俺達のすぐ真横に雷が落ちてきたけれど、直撃する事はなかった。
俺の側にいたヘイゼルがひゃぁっと悲鳴を上げて、怯えたように地面にしゃがみ込んでいるのが見えて、大丈夫だと宥めてやった。
しばらく広場を暴れ回った雷は、僅かに地面をえぐり取った後に、何事もなかったように過ぎ去っていった。
残されたのは、あまりの雷鳴とレスターの叫びに耳鳴りを起こす耳と、雷に怯える冒険者達の姿だった。
ほとんどの冒険者が地面にしゃがみ込んでいるのだが、ぽつぽつと、俺達のように立ったままの冒険者の姿も見て取れた。
その姿に、僅かにレスターが感心したような瞳を向けていた事を、俺は知らなかった。
しかし、あれだけ短い詠唱で、これだけの雷を召喚するとは……やはりSSランクは伊達ではないようだ。
「……怖がらせないよう、人が折角、猫をかぶっていたっていうのに、それじゃあ馬鹿なてめぇらは納得しないようだな。いいだろう。シンプルに行こうか」
ふっと、僅かに漢らしい表情で笑ってみせ、レスターは勝ち気な真紅の瞳で俺達を見据えた。
どうやら、こっちが本性らしい。
口元を引き上げ、にやりと笑うその様子に、先程の大人しそうな印象は何処かへと吹き飛んでいた。
どうやら、もう雷は降ってこないと安心したのか、地面にしゃがみこんでいた冒険者達がよろよろと立ち上がり始めた。
まぁ、またキレさせるような事をしたら飛んでくるかもしれないけど。
「……レスターって、まさか、あのレスターなのか?」
「だが、それしか、思い当たらないぜ?……あの横暴な性格、間違いねぇよ……」
と、近くの冒険者達がぼそぼそと話をしているのが、聞こえてくる。それに俺は何を話しているのか、僅かに耳をそばだてた。
「……まさか、あの“暁の魔女”と恐れられた、あの人なのか?」
ぼそりと零されたその言葉に、俺はぎょっとした。
“暁の魔女”というのは、各地で大暴れをして数多の伝説を打ち立てた人だ。俺も名前までは知らなかったが、そういう話は幾つか聞いた事がある。
たった一人で悪巧みをしていた冒険者30人を瞬く間に叩き伏せただとか、誰もが攻略不可能だと言った魔龍の巣窟で、最奥に住んでいた魔龍の主を打ち倒してきたりとか、その他にも逸話は幾つかある。
どれも突拍子もない程の伝説で、本当にそんな人物がいるのかと疑っていたのだが、どうやら今舞台に上がっている彼女こそが、“暁の魔女”その人なのだそうだ。
俺は改めて、レスターの姿を見た。
「いいか、てめぇら。私達のやる事は至ってシンプルだ。襲ってこようとしている馬鹿な魔物共に現実を叩き込んでやるのさ。この世界で、人こそが最強であるという事をあいつらは忘れちまったみてぇだからな!」
マイクを通して、物騒きわまりない言葉がレスターから発せられる。
最初の猫のかぶりっぷりは何処へやら。ホント、口悪いな、この人。
だが、その男勝りな物言いが、かえって冒険者達の不安を一蹴したようだ。
どの顔にも、最初の不安げな色は見えなかった。
どちらかというと、呆れ顔に近いかもしれないが、レスターの実力を疑う者は随分少なくなっているようだった。
流石に、あんな雷の洗礼を食らった後だ。皆、レスターの言葉に耳を貸している。
「私もゴーストブルーからの中継は見させてもらった。この魔物襲撃事件には裏から操る謎の人物達がいる。それが何者なのかわからないが、奴らは強い。もし、そいつらを生け捕るか、倒した奴にはメガロカンパニーから特別報酬金が出る事になった!」
レスターはマイクを握り締めながら、声高らかにそう口にする。それに周りの冒険者達はざわざわと小声で話し出した。
やはり、無償での慈善活動など冒険者には不向きだ。利害があってこそ、命を賭けるのが冒険者の性。メガロカンパニーはやはりその辺の事を理解しているのだろう。
勿論、俺達が守備するのは金の為だけではないが、そういうのが目的の奴も多い事は確かだ。
僅かに活気づいたその様子に、レスターは満足そうに辺りを見回した。
「奴らは、その中継の中でこんな事を口にした。『冒険者などに防衛戦が出来る訳はない』と。……本当にそうだと思うか?てめぇらは、そんなに無能か?冒険者は、ただの馬鹿の集まりだと思うか?……どうなんだ、てめぇらっ!!」
レスターは傍若無人なその物言いのまま、俺達に問う。それに僅かに怒りを呷られた様子で、冒険者達が口々に声を上げる。
「俺達は無能じゃねぇっ!!」
「馬鹿の集まりとは言ってくれるじゃねぇか。おもしれぇっ!」
「冒険者舐めてんじゃねぇぞっ!!」
叫ばれるその言葉の数々に、レスターはにやりと笑ってみせ、そうだと力強く頷いた。
「私達、冒険者は無能なんかじゃない。そうだな、てめぇら!……だったら、その馬鹿共と魔物共に思い知らせてやるんだっ!冒険者の恐ろしさを、嫌という程なっ!!出来ねぇとは言わせねぇぞ。どうだ、出来るか、てめぇらっ!!」
レスターの言葉に、広場に集まった冒険者達は腕を振り上げ、声を上げた。
その声はどこまでも力強く、周りに漂う水を振動させた。
返されたその声に、レスターは力強く頷き、満足そうににやりと笑った。
「よぉし、流石は命知らずの馬鹿共だっ!!それでこそ冒険者のあるべき姿だっ!冒険者とは、即ち、道を切り開く者だ。どんな苦境が待ち受けていようとも、前に進む姿こそ、冒険者のあるべき姿だ……てめぇらと戦える事を、私は誇りに思う!!」
レスターは一度そこで言葉を切ると、すぅっと息を吸い込んだ。
「街は必ず守り抜く!!魔物共には死と呪いの口吻をっ!!冒険者を敵に回した事を、奈落の底で後悔させてやれっ!!戦神の加護は我らと共にあるっ!!精々、暴れてやろうぜ、てめぇらっ!!」
腕を振り上げ、大音響で叫ぶレスターの言葉に、冒険者達もまた腕を振り上げ、声の限りに吠えた。
レスターの声に負けない程の雄叫びが広場から溢れ、まるで爆発したかのような音の洪水が辺りに響き渡って木霊した。
俺はあまりの雰囲気に呑まれ、ただ圧倒されていた。
何というか、ホント、すごい人だな、このレスターって人は。
あれ程不安げにしていた冒険者達を一瞬にして活気づけるとは……早々出来る事ではない。
天性のカリスマ性って奴なのかとか、そんな事を考えながら、俺はその演説を聞いていた。
「……では、気合いの入った所で、この後は各自、我々の指示に従って行動して貰う事となる。隊長となっている者は私の元に集まってくれ。魔物共が攻めてくる前にやる事は多い。各自の迅速な行動に期待している」
そう言ってレスターは手に持っていたマイクをミラに手渡した。
「では、それ以外の冒険者さん達は、部隊毎に守備位置の確認と、外壁の補修を手伝って頂きますので、隊長さん以外の方、お一人で結構ですので私の所に来て下さーい」
マイクを受け取ったミラは両手を振って、冒険者達の注目を引いた。
……外壁の補修、か。確かにあまり外壁をじっくり見た事はないが、元々海底に沈んでいた古代遺跡を基盤としているだけあって、ぼろぼろな所が多いのだろう。
付け焼き刃でも、補修しておいた方が強度は多少増すだろう。
一人来いって事だけど……隊長が招集かかっている以上、やっぱり、俺なのか?
俺はちらりとみんなを振り返ると、案の定、行ってこいとどの顔にも書いてある。
はいはい、パシられてきますよ。
「じゃあ、私はレスターの所に行ってくるね。私がいない間、みんなを宜しくね。副隊長さん♪」
ぽんっと俺の肩を叩き、リラはにっこりと微笑んで雑踏の中に消えていった。
ある意味、最初に副隊長を決めておいて良かったのかもと思いながら、俺はみんなから離れ、ミラの元へと近付いた。
ミラの所へ歩み寄ると、既に数人の冒険者達が集まっていた。俺はその最後尾に並び、自分の番が来るのを待った。
一人、また一人と、ミラから指示を受けて列から離れていく。俺の後ろにも人が並び始め、一体どれくらいの部隊が出来ているのだろうと、疑問に思った。
と、そんな事を考えていたら、どうやら俺の番が回ってきたようだ。俺はミラの前に歩み寄り、彼女を見下ろした。
「第六部隊だが、俺達は何処へ行けば良いんだ?」
俺の問いかけに、ミラは手に持っていた紙の束をぱらぱらとめくり、その中から一枚の羊皮紙を取り出した。
「第六部隊は、西側の外壁Bブロックですね。詳しくは図がありますので、こちらを見て下さい。補修場所は持ち場になります。資材置き場の説明もお渡しした紙にあります。やり方については現地の方でマックスさんがお待ちですので、そちらから指導を受けて下さい。では、宜しくお願いします」
ぴらりと差し出されたその羊皮紙を受け取り、俺はミラの前から離れた。
紙面を一瞥し、自分の持ち場を確認する。どうやら、俺達の持ち場は、正門から僅かに左にずれた位置らしい。……という事は、激戦が予想される場所、と言う訳か。
やはり魔物達も馬鹿ではない。正門は固く閉ざしてはいるものの、力尽くで開けようと思えば開けられる。開いてしまえば、わざわざ壁をよじ登る必要もない訳で。
絶対に破られてはいけない場所の側という事は、気が抜けないな。
まぁ、どこが持ち場でも同じ事だけど、より一層の心構えが必要になりそうだ。
それに俺は僅かに小さく息をつきながら、待っているみんなの元へと急ぐように、踏み出す足に力を込めた。













とんてんかん、とんてんかんと、木槌の音がそこかしこから聞こえてくる。俺は手に持っていた刷毛でセメントを亀裂の走っている石壁へと塗りつけた。
全く、こんなぼろぼろだったなんて、聞いてないぞ。
色んな所に亀裂の走る壁を見つめ、俺は顔をしかめて溜息をついた。
と、そんな俺の隣から、これまた盛大な溜息が聞こえ、そちらへと視線を向ければ、不機嫌そうなメノーの姿が見えた。
「あー、もう、つまんなーいっ!」
みぎゃーっと声を上げて、メノーがじたばたと暴れ出す。どうやら、単調なこの補修作業に飽きたようだ。
始めたばかりの頃は、面白そうにぺたぺたとセメントを壁に塗りつけていたのに……
まぁ、確かに長時間やるには根気がいる作業だよな、これ。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい、メノー。これも自分たちを守る為ですよ」
そんなメノーを見かねて、ヴァレフが暴れる彼女を宥めるように声をかける。だが、メノーは今だ不機嫌そうにぷくーっと頬を膨らませ、
「分かってるけど、つまんないんだもーーーーんっ!」
と、不平を口にした。
流石に土木工事を面白いとは思えないよな。報酬が出る訳でもないし。
確かに必要な事だとは思うけれど、こう切りがないとだれてくるというものだ。
周りを見ると、メノーと同じように不平をもらしている者がちらほらと見える。
自分達を守る為の作業だという事は皆が理解している筈だが、全てが全て、同じ気持ちにはなれないものだ。
冒険者にはこういった仕事は向かないなと、周りを見回し、小さく溜息をついた。
と、そんな俺の横で、ひたすら黙々と壁の補修作業をしているヴェンレクスの姿が見えた。
ぺたぺたと一心不乱にセメントを塗りつけ、てきぱきと補修をしている彼は、俺の視線に気がついたのか、その水色の瞳をこちらに向けた。
「あはは、僕、こういう地味な作業って結構好きなんですよ。夢中になってました」
俺の視線の意味に気がついたのか、ヴェンレクスはあははと微笑んで見せた。
どうやら、冒険者の中にもこういった人はいるようだ。
まぁ、冒険者が土木工事に不向きかというのは、性格的な問題もありそうだな。
「ま、どんだけ補修しても、明日の今頃にはどうなってるか、わかったもんじゃねぇけどな」
と、ヴェンレクスの隣で、煙草をふかしながらラセットが皮肉げな言葉を口にする。
不真面目そうにぺたぺたとセメントを塗りつけ、適当に補修作業を行っている。その様子に僅かに非難するような瞳を向ければ、皮肉そうな視線が返された。
「なんだ、俺の作業がご不満か?副隊長さんよぉ」
「…………別に」
ここでこの男とやり合った所で、態度を改めるとは思えない。俺はふいっと視線を逸らし、喧嘩を売ってくるラセットを無視して、作業を再開した。
「みんな、ただいまー」
と、そんな俺達の元へ、リラが会議から戻ってきたのか、ひらひらと手を振りながら歩み寄ってきた。そんな彼女の後ろには、三人の人影があり、俺達はきょとんとした顔を見合わせた。
一人は先程壇上で漢らしいまでの啖呵を切って見せた我らが隊長、レスター・スカーレットその人だが、後の二人に見覚えはない。
俺達は説明を求めるようにリラへと視線を向けた。
「えっと、こちらのお二人は一般の方から志願してきた人達だよ。この部隊に配属になったので、みんなもよろしくねぇ」
リラは顔を見合わせる俺達に簡潔に説明する。
リラに連れてこられたその二人は、体格の良い中年の牛族の男性と、12、3歳程の狐族の少女だった。
どちらも銃を持っており、少女に至っては自分の背丈に近い程の長銃を背負っている。
腰程まである長い緑の髪を結う事なく、無造作に垂らしたその少女は、無表情のまま、ぺこりと頭を下げた。
なんか、表情が乏しい子だな、というのが第一印象だった。
「えっと、グラナダさんと、ルナちゃんです。二人とも、銃の扱いが出来るという事で、一般の方から志願してきたそうだよ」
リラが二人の事を紹介してくれる。なるほど、元々銃を扱う事が出来るなら、戦力としてありがたい限りだ。
しかし、こんな幼いのに、銃の扱いが出来るのか。
まぁ、ここは冒険者が集まるカバリア島だ。この少女がどんな環境で育ったかは分からないが、銃が扱えても不思議じゃないという事か。
なんて、一人で納得していると、牛族の男性が口を開いた。
「隊長さんから紹介されたが、一応自己紹介。俺はグラナダ。ここには商売の為に、家族と移住してきた。妻と三歳になる娘がいる。家族を守る為に、俺も一緒に戦いたい。ま、一つよろしく頼むぜ、冒険者諸君」
グラナダと名乗った男は、そう言って白い歯を見せて笑った。外見からするに、30歳前後といった所か。
家族を守る為に戦いたい、か。納得のいく理由に俺は彼に好感を抱いた。
「……ルナ、です。宜しくお願いします……」
と、今度は少女の方が口を開き、その可愛らしい声でぼそぼそと名乗った。
相変わらず無表情のままだが、ぺこりと頭を下げる。人見知りが激しい子なのかな。
でも礼儀正しい子みたいだし、悪い子ではなさそうだ。
俺達も一通り新しく来た二人に自己紹介した。と、それまで事の成り行きを見守っていたレスターが、俺達の会話に区切りがついたのを見計らって、ようやく口を開いた。
「さて、話がついたようなので、喋らせて貰うが。まぁ、私の自己紹介は省略して良いよな?」
こほんと軽く咳払いをして、話し始めたレスターは伺うように一度だけ隣に立っているリラへと視線を向ける。それにリラは柔らかい微笑みを浮かべた。
「……えっと、私とレスターは島に来たばかりの頃に知り合った仲で、私の一番の親友だよ」
二人の関係について疑問を抱く俺達に、リラが簡潔に説明してくれる。
なるほど、やはりこの二人は元々顔見知り同士だったのか。リラの言動を思い返しながら、俺は一人納得した。
「あー、まぁ、それはどうでもいいんだ。で、話はここから。……これからちょっと野暮用があってな。リラとあともう一人くらい、手を貸して欲しいんだが……」
誰か、頼める奴はいるか、とレスターは僅かに歯切れ悪く、そう口にする。それに俺達は顔を見合わせた。
「手を貸して欲しいって、何をすれば良いんだ?」
俺はレスターへと視線を戻して問いかけると、レスターは俺の方へと視線を向けた。
「……ああ、まぁ、対した事ではないんだが、ちょっとした護衛だ」
「護衛?……誰を?」
「……それは、詳しくは後で話す」
ここではっきりと告げる事を躊躇ったのか、レスターは言葉を濁しながらそう告げる。
あまり公に出来ない事、という訳か。
何か訳ありそうなその要求に、リラはともかく、レスターと親しくない俺達が受けてしまって良いものなのだろうか。
一人考えあぐねていると、メノーが口を開いた。
「あたし、護衛なんてパース!」
嫌よ、そんなかったるい事、と続けながら、彼女は容赦なく言い放った。
その様子に隣にいたヴァレフも顎に手を当て、ふむと小さく呟くと、
「では、私も辞退させて頂きます。メノーを一人にしておけませんしね」
と、彼もまた拒否を口にした。
「悪いが、俺も護衛なんてもんはパスするぜ。自分の命も守れねぇような奴は、いっそくたばっちまった方がいいぜ」
煙草をふかせながら、ラセットもまた拒否を表明する。言いたい事は分からなくもないが、もう少し言い方っていうものがあるだろう。
ラセットの言葉に僅かに非難めいた視線を向ければ、ふんっと彼は素知らぬ顔で明後日の方向を向いた。
こいつとはとことん馬が合いそうにないな。俺は明後日の方向を向くラセットへと視線を投げつけ、小さく溜息をついた。
「ふむ……じゃぁ、しゃあねぇ。お前でいい、一緒に来い。拒否権はなしだ」
「え、俺?」
口々に拒否を表明する面々に顔をしかめていたレスターが、びしっと俺を指差し、はっきりと口にする。
それに俺は間抜けな声を出してしまい、ぎょっとしてレスターを見た。
なんか、また消却法で選んだような言い回しだな。
リラといい、レスターといい、どうしていつも、消却法で俺を選ぶんだっ!
しかも、強制ときたもんだし。
俺は小さく溜息をついて、了承するしかなかった。
「あー、でもそうすると、隊長も副隊長もいなくなっちゃうねぇ」
大丈夫?と周りを見回し、リラが小首を傾げてみせる。それにヴァレフはひらひらと手を振りながら、
「大丈夫ですよ。みんな子供ではないんですし、しばらくの間、隊長方がいなくても、問題はありませんよ」
と、にっこりと柔和な顔で笑って見せた。
ヴァレフの言葉にレスターはうむと頷くと、行くぞと簡潔に言って踵を返した。
俺とリラは一度だけ顔を見合わせた後、レスターの後に続いて歩き始めた。
そんな俺達を残された面々がそれぞれの形で見送ってくれる。
足早に歩くレスターを追いかけ、俺は彼女の隣に並ぶ。それにレスターは歩きながら、俺の方へと視線を向けた。
「そうか、お前がリラの話していた副隊長だったのか」
レスターが僅かに俺に関心を示しているのか、興味深そうな瞳を向けてくる。
い、一体リラはレスターに、何を話したんだろう。別に他の冒険者とさほど変わりなんてない筈だけどな。
「……そ、それが何か?」
「いや、何。リラの隊は粒が揃っているからな。その中で選ばれたんだから、それなりに見所のある奴と言う事だ」
こいつは普段ぼうっとしているが、目の付け所は良いからな、とリラを指差し、奇策に笑いながら、レスターはそう言った。
「ぼうっとしてるは余計だよぉ」
「いや、全然余計じゃない」
軽口を叩くレスターの様子に、にこにこ顔のままでリラが反論をするも、それは直ぐさま、レスターによって一蹴された。
しかし、見所のある奴と言われてもなぁ。俺、消却法で選ばれたんですけど……
なんて、一人心の中で呟いていると、目的の場所に着いたのか、レスターの歩調が僅かに緩くなる。
ここは、役場の会議室前。対策本部が設置されている場所だ。
となると、護衛をする人物というのは、もしかして……
会議室前で待ち構えていた人物に歩み寄り、レスターは軽く手を挙げてみせた。
「待たせたな、クア村長」
レスターのその言葉に、待っていたその人物はうむと小さく頷いてみせた。やっぱり、護衛を求めていたのはクア村長か。
だが、現在街の最高責任者である彼が何処へ行こうというのか。護衛が必要な場所という事は、危険を伴う所という事だ。
俺は話が飲み込めず、レスターへと視線を向けた。
「ああ、すまない。まだ話していなかったな。護衛するのはクア村長だ。で、何処へ行くかだが……」
戸惑う俺の様子に、レスターが説明をくれる。と、そんな彼女の言葉を遮るように、クア村長がすっと手を挙げて、彼女を制した。
制されたレスターが視線をクア村長へと向けると、クア村長はそれに応えるように小さく頷いてみせ、その緑色の瞳を俺に向けた。
「……我々はノーラ下水管に行かねばならないのだ」
はっきりと告げられるその行き先に、俺はきょとんとしてクア村長を見た。
「ノーラ下水管へ?」
聞き返す俺の言葉にクア村長は、ただこくりと小さく頷いた。
そんな所に何の用があるのか、ピンと来ない俺は更に説明を求めるようにクア村長を見た。
「……万が一、我らが魔物達に敗北し、この街が蹂躙されるような事になれば、下水管に住んでいる彼らにも被害が及ぶ可能性がある。彼らは温厚で、争いは好まない。魔物といえど、我々と彼らはお互いに干渉し合わない事で今まで共存してきた。そんな彼らを、魔物達が仲間として受け入れるとは考えにくい……」
だから、危険を知らせに行きたいのだ。と、クア村長は静かに続けた。
なるほど、そういう事か。だが、危険を知らせるだけならば、何もクア村長が行かずとも、使いの者を出せばいい話ではないのだろうか。
沸き上がる疑問を察したのか、クア村長はそんな俺を一瞥した。
「……出来る事ならば、彼らの力を借りられないものか、と考えているのだよ。彼らにとっても、このアクアリースは故郷のようなもの。それが蹂躙されるのは望む所ではないと思う。……だが、彼らにとって魔物達は同胞だ。我らの頼みを聞いてくれるかどうかは、わからないがな」
ふっと、僅かに自嘲のような笑みを浮かべながら、クア村長はそう言って瞼を伏せた。
クア村長自らが出向くのはその為か。
確かに、助力を得ようとしているのであれば、使いの者では失礼に当たる。
責任者自らが出向いてこそ、相手へ誠意を示せるというものだ。納得のいくその理由に、俺はクア村長を見た。
昨日の夜見た時よりも、顔が随分とくたびれたように見える。
彼は彼なりに、街の為に出来る事を精一杯考えているのだろう。
心労は相当なものである筈だが、彼が街をまとめてくれたからこそ、大きな混乱もなくこうして魔物達を迎え撃つ事が出来るのだ。
クア村長には感謝しても、し足りない程なのだと、今更ながらに痛感した。
「……説明はこれくらいで十分だろう。時間が惜しい、一刻も早く下水管へ向かう事にしよう。宜しく頼む、冒険者諸君」
「ああ、任せてくれ、クア村長。では、行くぞ、二人共」
はぁーい、とレスターの言葉にリラが応え、歩き出した二人に続き、俺も下水管に向かって歩き出す。
どんなにノーラ達が争いを好まない種族といえど、お互い今まで不干渉を決め込んでいたのだ。境界を越えて、侵入してきた者に対して、彼らがどんな反応を返すかは分からない。
俺達は、その為の保険という訳だ。
前を歩く初老の背中を見つめながら、俺は一人考察しながら彼らの後に続いた。
そのまま歩いていくと、崩れ落ちた洞窟の片方が見えてきた。
相当な人数が集まって、埋まった洞窟を普及しようと、土砂を掻き出している様子が伺える。
朝の段階では本当に手のつけられない状態だったが、今は随分瓦礫が撤去されている。
街のほとんどの住人や力のある冒険者達が一丸となって作業している様子が見て取れて、思ったよりも早く普及するのではないかと、過度な期待を持ちたくなった。
「……あれ?ラフィじゃないか?」
と、洞窟の普及作業の現場を通り抜ける俺の背に、聞き覚えのある声がかけられる。
それに俺は足を止め、そちらを振り返ると、スコップを肩に担いだミュウラーがきょとんとした顔で立っていた。
足を止めた俺に気がついたのか、前を歩いていたレスター達が俺を振り返った様子が伝わってくる。
「そっちには下水管しかないけど、何処に行くんだ?」
「……えっと……それは、その……」
ミュウラーは状況がつかめない様子で、首を傾げながら俺を見下ろしてくる。それに俺は何と答えるべきか迷い、言い淀みながら視線を後ろの面々へと投げた。歯切れの悪い俺の様子に、ミュウラーは更にきょとんした表情になった。
「……ふむ、お前、こいつの知り合いか?」
と、そんな俺に助け船を出すように、レスターがミュウラーに声をかけた。それにミュウラーはこくりと頷き、
「ああ、パーティを組んで、一緒に仕事をしている」
今は別行動中だけどな、と苦笑しながら、レスターに答えた。その様子に、レスターは顎に手を当て、ミュウラーを見定めるように僅かに瞳を細めた。
「……そうだな。実力は申し分なさそうだ。よし、お前も一緒に来い。ここの現場監督は誰だ?私が話をつけよう」
レスターは細めていた瞳を開き、早口にそう告げると、状況の分かっていないミュウラーに問いかける。
「……え……あそこにいるネイトだけど……」
ミュウラーは戸惑いながらも、人波の中で見え隠れしているベレー帽の男を指差した。
確かに、現場を仕切っている様子が伺える。レスターはそれ以上の説明をする事もなく、呆然としているミュウラーの横をすり抜け、ネイトの元へと歩み寄っていった。
「……い、一体、何事?あの人は誰だ?」
ミュウラーはスコップを肩から下ろしつつ、俺に説明を求めるようにきょとんとした顔で見下ろしてくる。
それに俺は簡潔な説明をミュウラーにしなければいけなかった。
全く、巻き込むのはいいけど、せめて必要な説明だけはして欲しいものだ。
「あの人は、レスター・スカーレット。俺達、守備隊の総司令官だ。それで、こっちがうちの部隊の隊長のリラだ」
ミュウラーの視線を誘導しながら、リラを紹介する。それにリラはにっこりと微笑んで、ひらひらとミュウラーに手を振ってみせた。
「で、俺達はこれから、クア村長を護衛して、ノーラ下水管に行かないといけないんだ」
俺の言葉にミュウラーが困惑したように瞳を丸くした様子を眺めながら、簡潔に理由を説明した。と、そうこうしているうちに、ネイトとの交渉が終わったのか、レスターが俺達の元へと戻ってきた。
「待たせたな。ネイトに許可を取り付けてきた。一緒に来て貰うぞ……えっと……」
「……ミュウラー、だ。“暁の魔女”殿」
レスターの言葉に、ミュウラーは僅かに笑みを浮かべながら、彼女へと視線を向ける。それにレスターは一瞬驚いた瞳を向けたが、ふっと目を細めて笑った。
どうやら、ミュウラーはレスターの名を知っていたらしい。まぁ、有名人、だしな。
ミュウラーを加えた俺達は、そのままノーラ下水管へと真っ直ぐに向かって、再び歩き出した。
確かに、あまり大人数でもしょうがないが、これくらいの保険は必要かもしれない。
俺もリラも、あまり接近戦は得意とするものではない事は確かだし。
まぁ、接近戦もやろうと思えば、俺だって多少なりとも心得はある。元々、子供の頃からねーちゃんの組み手の相手をさせられてたからな。
だが、本職と比べると、やはり劣る面は多々ある。戦士系がいてくれるのはありがたい限りだ。
まぁ、最も、何事もなければ、それに超した事はないのだけれど。
「……さて、では、中に入るぞ」
レスターがランタンを掲げながら、暗い下水道の入り口を覗き見る。僅かに湿った風が中から吹き出してくるのを感じながら、俺達は下水道の中へと足を踏み入れた。
先頭にはレスターとミュウラー。真ん中にクア村長を挟み、俺とリラで背後を固める。
時折、湿った下水道の上部から滴り落ちてくる雫が、ぴちょんっと音を響かせ、静寂を引き裂いた。
ぴりぴりとした殺気がそこかしこの闇の先から感じられる。やはり、境界を破って侵入してくる者には敏感なのか。
すぐに襲ってこないのは、俺達を警戒しているからなのか、それとも……
肌に直接突きつけられるようなその殺気を受けながら、警戒しつつ更に奥へと進む。
こつこつと響く靴音だけが、周りの壁に反響して、辺りに木霊した。
そのまま黙々と歩を進め、下水道の中腹まで進んだ所で、変化は唐突に訪れた。
何処からともなく、下水道の闇の中から幾つもの丸い影が俺達の行く手を遮るように姿を現した。どうやら、ようやくのお出ましのようだ。
人より少し小さい丸みを帯びた体。つるつるとした緑色の肌を持つその生き物達は、不気味な程に赤く輝く瞳で俺達を睨み付けてくる。どう見ても、友好的とは言い難い雰囲気だ。
『立ち去れ、地上の民よ。此処は、お前達が来るような場所ではない』
ノーラの一匹が低く聞き取りづらい声で、俺達に語りかける。どうやら、群れの真ん中にいる体格の良いノーラが、この群れのリーダーらしい。
立ち去らなければどうなるか、そう忠告じみた事を口にするノーラのリーダーの周りには、殺気を振りまくノーラ達が集まっている。
今にも襲い掛かってきそうなその様子に、俺達が警戒して武器に手をかければ、ノーラ達もそれに反応して、更に威嚇するように瞳を輝かせた。
一瞬即発のその雰囲気に、慌てた様子でクア村長が俺達を制した。
「待ってくれ、ノーラ。我々は戦いに来たのではない」
クア村長の声が、下水道の中で反響して響く。話があるのだ、と告げるクア村長のその言葉に、ノーラ達からの威嚇が僅かに和らいだ。
どうやら、ノーラ達はクア村長を知っているようだ。
アクアリースの長であるクア村長自らのお出ましに、流石のノーラ達も顔を見合わせている。
「外の事で、伝えたい事があるのだ。最長老殿に会わせては貰えまいか」
静かに続けるクア村長の言葉に、ノーラ達は何事か、彼らの言葉で話し合っている。
言葉を理解する事の出来ない俺達には、彼らの間で何が話されているのか理解は出来ない。
遙か昔、宇宙からやってきた存在。鉱石を食す長命の古代生物、ノーラ。
争いを好まず、暗く静かなこの下水道で、ただひっそりと暮らす彼らにとって、俺達はただの邪魔者でしかないのだという事は理解しているつもりだ。
だが、事は一刻を争う。出来れば、穏便に済ませて貰いたいのだが、果たして彼らの返答は。
俺達は固唾を呑んで、彼らの返答を待った。
と、ようやく彼らの話し合いに結論が出たのか、ノーラ達が俺達を見据え、口を開いた。
『……結論が出た。お前達を最長老に会わせる事は出来ない。立ち去るがいい』
はっきりと告げられる拒絶の言葉。突きつけられるその言葉に、俺達は息を呑み込んだ。
「何故だ、会わせてくれるくらい、問題はないだろう」
レスターがすかさず彼らに抗議するも、ノーラ達は首を振り、
『我々は、地上の民を信用していない。お前達が最長老に危害を加えないという保証はないからな』
と、赤く輝くその瞳で敵意をむき出しにして、俺達を睨み付けた。
完璧に警戒されている。当たり前といえば、当たり前だが、こうもあからさまに拒絶されるとは……交渉する手段はないというのか。
とりつく島すらないノーラ達の様子に、俺達はただ言葉を詰まらせた。
「待ってくれ、ノーラ。これは、貴方達にも関わってくる話なのだ。このままでは、アクアリースは……」
と、そんな中、クア村長が抗議の声を上げる。青白い顔で告げるその声は、ひどく焦っているようで、事の重大さを物語っている。
そんなクア村長の様子に、顔を見合わせるノーラ達は、状況がつかめず困惑しているようだ。
「良いか、ノーラ達。落ち着いて聞いて欲しい。……明日の朝、このアクアリースは戦場になるのだ……」
『――っ!?』
はっきりと告げられるクア村長の言葉に、ノーラ達が驚きに眼を見開いた。クア村長はその反応を見つめながら、静かに続けた。
「……とある一部の冒険者達が、魔物を率いて、このアクアリースに侵攻しようとしてきている。これは、魔物達の宣戦布告だ、とな……」
真剣な瞳でノーラ達を見据え、クア村長は事の経緯をノーラ達に説明する。クア村長の言葉を聞いたノーラ達は一様に動揺を隠せないのか、困惑したようにおどおどとし始めた。
「事は一刻を争うのだ。……頼む、ノーラ。我々を、どうか最長老の元へ……」
懇願するように訴えかけるクア村長の必死さに、ノーラ達はどう対処すべきか判断がつかないのか、ただ顔を見合わせている。
と、そんな中、彼らのリーダーが口を開いた。
『……わかった。そこまで言うのならば、仕方がない』
おろおろと困惑しているノーラ達を静めながら、彼はそう言った。クア村長の熱意が伝わったのか、と僅かに期待を込めた視線で彼を見た。
『我々は、地上の民を信用しない。……だが、強き者には敬意を払う。それがノーラ族の掟だ。お前達と決闘をし、我々に勝てたなら、お前達の要求を呑もう』
はっきりと告げられるその言葉。ノーラ達は本当のこの状況を理解しているのか。俺はあまりの言葉に、ぎりっと奥歯を噛みしめた。
「状況が分かってるのか?事は一刻を争う。今はそんな事をしている暇はないんだ!」
俺と同じ思いなのか、ミュウラーが声を上げて、ノーラ達に抗議する。一刻も早く最長老の元へ、そう急かす俺達にノーラ達は冷淡だった。
『……わかっている。だが、これが我々の妥協出来る限界だ。……本来であれば、お前達、地上の民を最長老に会わせる事など、けしてありはしない。どんな理由があっても、だ。……だが、今回の事については、我々の行く末にも関わりのある事。しかし、最長老への面会は、私の一存では決めかねる事なのだ』
ノーラのリーダーは静かに続けながら、僅かに顔を俯かせる。どうやら、彼にとってもこの要求は大きすぎる事のようだ。
『ならば、お互い、正式な決闘を執り行い、勝った者の要求を呑む。……我らノーラ族は、強き者には敬意を払い、最上の礼を持って接する。それが我々の掟なのだよ。……古くさい儀式のようなものだ』
ふっと僅かに自嘲するような雰囲気を醸し出しながら、ノーラのリーダーはそう続けた。
どうやら、彼には苦渋の決断を迫ってしまっていたらしい。
その中で妥協案を出してくれた彼に、俺達はただその案を呑み込むしかなかった。
「……わかった。その要求を呑もう。……頼めるか、冒険者諸君」
クア村長が静かに俺達に問いかける。それに俺達はこくりと頷いた。
我々のリーダーはクア村長だ。彼の決定ならば従わざるをえまい。
俺達が決闘を承諾した事に、ノーラのリーダーは静かに瞼を伏せた。
「……それで、決闘のやり方は?」
リラの問いかけに、ノーラのリーダーは瞳を開いて、俺達を見据えた。
『三対三で執り行い、最後に立っていた者が勝者となる』
三対三……そう聞いて、俺達は顔を見合わせた。
「ふむ……我々は殺し合いに来たのではない。獲物は使わないで行う事は出来るか?」
『無論だ。我らとて、無用な殺生は望む所ではない。あと、これは仕来りに則って行われる決闘であるが故に、差別をする訳ではないが、女人の参加は許されない』
「なっ!?……それでは、私達は駄目と言う事か」
『すまぬが、これも仕来りだ。理解してくれ』
謝罪を口にするノーラの言葉に、俺達は困ったように顔を見合わせる。
そうなると、決闘に参加出来るのは俺とミュウラーと、クア村長だけという事だ。
……しかし、クア村長は冒険者ではない。戦えるとは到底思えない。クア村長自体も、いきなりの事に、顔を青ざめさせている。
今からもう一人、男の冒険者を連れてくるのでは時間がかかりすぎる。どうするか、と思案した俺の耳に、聞き覚えのある声が突如響いた。
「仕方ないなぁ。じゃあ、俺が戦うよ、ますたー」
カッと鎖骨の辺りにある契約印が熱くなり、周りのマナが吸収される。すぅっと光を発しながら、俺の精霊、メルクリウスが人の子供と同じ大きさに具現化する。
俺の肩程までの背丈になったメルは、その青い瞳で俺を見据えると、にっと勝ち気な表情で笑みを浮かべた。
本来、精霊がこちらの世界に具現化するにはそれ相応のマナと、宿主の精神エネルギーを消費する。人と同じくらいの大きさに具現化するのは宿主にとっても、それなりに負荷がかかる事だ。
だが、今このアクアリース近辺は大量のマナが溢れている。そのおかげで、俺への負荷は最小限に留められているようだ。
「ますたーもさ、体術そんな得意じゃないんだし、俺にまっかせなさーい♪」
軽口を叩きながら自信満々に笑うメルは、胸を張って自分の強さを主張する。
確かにメルの方が俺よりも、接近戦には長けている。心強いには心強いのだが、精霊が参加しても構わないのだろうか。
「精霊だけど、構わないよね?ノーラさん達」
と、そんな俺の疑問を察したのか、メルがひょいっとノーラ達に向き直り、にっと笑う。それにノーラのリーダーは僅かに考えたようだが、こくりと頷いた。
どうやら、正式にメルも参加者として認められたようだ。ありがたい限りだ。
「時間が惜しい。勝負は一回でつけさせてくれないか。三対三のチーム戦を提案する」
ミュウラーがノーラ達を見据え、そう提案する。それにノーラ達は一度顔を見合わせたが、こくりと頷いた。
『いいだろう。では、こちらの戦士だが、私と……』
どうやらリーダー自ら戦うようだ。ノーラのリーダーはちらりと仲間達を一瞥し、その中から二匹を選び出した。
選ばれたのは、少し体格の小さいノーラ・ジョーと、全身に包帯を巻き付けた中くらいの体格のノーラ・マミーだった。俺達の姿を見据え、ノーラ達の赤い瞳が力強く光った。
お互い、手の抜かない真剣勝負という訳だ。
負ける訳にはいかないな。俺達は顔を見合わせ、こくりと頷き合った。
俺とミュウラーは持っていた武器をレスター達に預け、ノーラ達と向き合う。
俺達三人と向き合ったノーラ達は、戦う三人を残し、僅かに後ろへ下がって場所を空けた。
それを見たレスター達も僅かに後退した。
『では、決闘を執り行う。地面に膝をついた者は敗者となる。最後に立っていた者が勝者だ。依存はないか?』
「ああ。いつでも構わない。始めてくれ」
ノーラの最終確認に、ミュウラーは簡潔に答え、構えを取る。それに習い、俺も腰を落とし、臨戦態勢に入った。
そんな俺達の様子を一瞥し、ノーラのリーダーは一度瞼を閉ざした。
そして、瞳を開いて俺達を見据えると、腕を振り上げた。
『決闘始めっ!!』
さっと腕を振り下ろし、ノーラの言葉が下水道の中に響いた。
それを合図に、ノーラ達が俺達に向かって走り込んでくる。
体術は得意ではないが、やるしかない。俺は覚悟を決めて、走り込んでくるノーラ達を見据え、小さく息を吸い込んだ。そして、そのまま息を止めると、地面を蹴りつけた。
走り込んできたマミーが俺に向かって鋭い爪を閃かせた。
風を切って閃くその爪の鋭さに俺はぎょっとして、防御の態勢から瞬時に回避に移り、身を翻してその爪をかわした。爪は卑怯だろ、爪はっ!
あんなものをまともに受けたら、ただじゃすまないぞっ!
「ちょっと待てっ!!爪は卑怯だろっ!!」
俺は慌てて抗議の言葉を口にする。それにマミーは僅かに瞳を見開いた。
『……ああ、すまん。いつもの癖が出た』
悪びれもせずに、いけしゃあしゃあと告げるマミーだったが、俺の抗議にちゃんと爪をしまってくれた。それに安堵を覚えながら、俺は気を取り直してマミーへと向き直った。
全く、隙あらば殺る気だったのか?
確かにノーラ達にとって、俺達は邪魔者でしかないのだから、排除したいというのはあるのかもしれない。だが、これはノーラ達にとっても誇りを賭けた決闘の筈だ。
まぁ、彼の言う通り、本当にうっかりだったのかもしれないが。
俺は更に思考を繰り広げようとする頭を振り切って、マミーを睨み付けた。
ぶんっと振り下ろされた拳を小さな動作でかわす。振りの大きかったマミーが僅かに体勢を崩したのを見逃さず、そのまま流れる動きのまま、今度はこちらからマミーに拳を突き出した。
だが、俺の放った拳はマミーに簡単に受け止められてしまった。
ち、やっぱり俺の腕力じゃ、たいしたダメージを与えられないか。
周りを見れば、ジョーと戦うメルの姿が視界に入った。という事は、一番がたいのいいリーダーを相手にしているのはミュウラーという事か。
確かに、敵の体格を考えれば、妥当な所だ。
俺やメルに一番体格のいいリーダーが来てしまった場合、立ち回れるか不安が残るというものか。メルの方が、まだうまく立ち回れるだろうが、力押しで来られてしまった場合は、どこまでやれるものか。
ミュウラーが押さえてくれているのならば、安心出来る。それは、相手方も同じような所だろう。
また思考に耽ろうとしている頭を黙らせて、俺は走り込んできたマミーから繰り出される拳をことごとく避けた。
『ち、ちょろちょろとっ!』
そんな俺にマミーがぎりっと悔しそうに歯ぎしりする様子が見て取れた。
マミーから繰り出される拳は、一つ一つの動作が大きいので、見切るのは簡単だった。
だが、避けてばかりでは決着などつかない。俺はマミーを睨み付け、隙を探した。
大きな振りで突き出された拳を、体を捻る事でかわすと、僅かにマミーが体勢を崩した。
その瞬間を見逃さず、俺は捻ったままの力を利用して、体勢を崩したマミーに向かって回し蹴りを繰り出した。
マミーは咄嗟に腕を盾にして俺の蹴りを防いだものの、捻りを加えた分、強烈だったのか、僅かに吹っ飛ばされて、後退した。
俺はそのまま追い打ちをかけるように、地面を蹴りつけてマミーに向かって走った。
体勢を低くし、下から突き上げるように拳を繰り出す。ひゅっと空気を切る音が響き、マミーの顎を直撃するコースで放たれた拳は、残念ながら何も捕らえる事が出来なかった。
マミーが咄嗟に顎を反らせてかわしたのだ。
それに小さく舌打ちをし、崩された体勢を整えようとした瞬間に、今度は逆にマミーからの拳が放たれた。
俺は咄嗟に体の前で腕を交差させ、マミーの拳を受けたが、その衝撃はかなりのもので、体が吹っ飛ばされた。
ずずずっと、足でブレーキをかけ、何とか耐える。倒れ込んでしまったら、その段階で負けとなるのだ。負けられない俺としては、何としても倒れる訳にはいかない。
マミーの拳を受けた腕がじんじんと悲鳴を上げている。防御していなかったらどれだけの被害が出た事か。
やっぱり俺には体術は向かないな、なんて、今更な事を考えながら、マミーを睨み付けた。
そんな俺の背後に、メルが背中を合わせるように後退してきた。視線は対峙しているジョーへと向けられたままだが、どうやら俺を心配してきたらしい。
全く、戦いに集中しろって言うんだ。
僅かに苦笑が浮かぶのを感じながら、それでも背中に伝わるメルの気配に心強さを覚えている自分に気づいて、全くいい相棒を持ったものだと、今更ながらに思った。
俺達に向かって突っ込んでくるマミーとジョー。俺達はそれぞれ対峙している相手を睨み付けていたのだが、瞬間的に位置を交換した。
『――!?』
追い込むように、走り込んできたノーラ達は、瞬間的に相手が変わった事に驚き、僅かに怯んだようだ。その隙を見逃す程、俺もメルも、甘くはない。
メルが地面を蹴りつけて、マミーに向かって体当たりをする勢いで走り込んでいく。その気配を背後に感じながら、俺は目の前に迫るジョーへと視線を向け、地面を蹴りつけた。
繰り出された拳を避けて、がら空きになったジョーの上体へと蹴りを繰り出す。ジョーは腕を盾にする事で直撃を避けたものの、ぐらりと体勢を崩した。俺は蹴った反動のまま、くるりと体を回転させ、今度は反対の足でもう一度ジョーへと追い打ちをかけた。
『っ!?』
流石に二段攻撃には対処しきれなかったのか、今度こそ直撃を受けたジョーは、軽々と吹っ飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
膝をついた者は敗者となる。最初に取り決められたルールに則れば、ジョーは敗者となった訳だ。
俺は一度だけ倒れたジョーへと視線を向けたが、マミーと対峙するメルが心配で、そちらへと視線を走らせた。
俺が振り返った瞬間、メルの青いスカーフがひらりと弧を描いてなびいたのが視界に入った。どうやら、俺の心配は杞憂だったらしい。
メルは俺よりも敏捷性が高い。その動きでマミーを翻弄し、勝敗は決したようだ。
メルの渾身の攻撃を受けて、マミーの体が吹っ飛ばされた。このまま倒れれば、メルの勝ちが決まる。
だが、彼も伊達に一族の代表として選ばれた訳ではなかったらしい。最後の最後に悪あがきとして、体に巻き付けられていた包帯を瞬時に紐解くと、それをメルへと巻き付けたのだ。
足に絡められたその包帯に引っ張られ、メルがずべんっとしりもちをついて転がった。
吹っ飛ばされたマミーもまた、そのまま着地する事が出来ず、地面に倒れ込んだ。
まさか、こんな方法で引き分けに持ち込むとは……
俺は最後の最後まで勝負を諦めなかったマミーの執念深さに、僅かに感心させられた。
「あちゃぁ、やっちゃったー。ごめん、ますたー」
しりもちをついたメルは申し訳なさそうな顔で俺を見上げる。それに俺は慰めるように、一度だけその頭を撫でると、一人戦っているミュウラーの元へと駆けつけた。
俺が駆けつけた瞬間、リーダーの拳を受けたミュウラーが吹っ飛ばされてきた。
それに俺はぎょっとさせられ、彼を支えようとしたのだが、あと一歩届かなかった。
足で勢いを殺すようにブレーキをかけているものの、相当な衝撃なのか、ミュウラーの体が下水道の壁に激突した。
がんっと思いっきり背を打ち付けながら、痛みに顔をしかめるミュウラーだったが、なんとか倒れ込まずに耐えきった。
げほりと小さく咳き込みながら、痛みに顔をしかめつつも、ミュウラーが自分を吹っ飛ばした相手を睨み付けた。闘志に燃えた黒い瞳がぎらりとした眼光を放っている。
相当、力負けした事が悔しいらしいな。
しかし、あのミュウラーが吹っ飛ばされるなんて……
俺はゆらりと立っている緑色の巨体を睨み、ぞくりとしたものを感じた。
怪しく輝く赤い瞳が、二人の元へ駆けつけようとしていた俺に向けられ、言い表せない殺気にも似た気配が直接肌に叩き付けられる感覚を味わった。
明らかに、他の二匹と雰囲気が異なる。
こんなのを相手に今までよく対峙していられたものだ。ミュウラーの凄さを今更ながら痛感させられ、俺はリーダーを睨み付けるミュウラーへと視線を向けた。
「……他は倒してきたのか」
そんな俺に、視線をリーダーに向けたまま、ミュウラーが声をかけてくる。それに俺はこくりと頷き、リーダーへと視線を走らせた。
「ああ。あとは、こいつだけだ」
「…………わかった」
俺の言葉にミュウラーは簡潔に答えると、自分を落ち着かせる為か、一度目を閉じて、深く息を吐き出した。
力負けした事で、格闘家としての誇りに火がついていたのだろう。出来る事ならば、正々堂々一対一の戦いがしたかったのだろうと思う。だが、俺達は負ける訳にはいかないのだ。
これはチーム戦だ。卑怯だろうと何だろうと、協力出来るならばした方がいいに決まっている。
まぁ、俺なんかが何処まで太刀打ち出来るか分からないけど。
ミュウラーは精神統一を終えたのか、その黒い瞳を見開いて、リーダーを真っ直ぐに見据えた。
「……悪く思わないでくれ。これはチーム戦だからな。俺達は勝たなければいけないんだ」
自分を納得させるかのように、ミュウラーはリーダーへと宣言する。
それに彼は分かっているというように、小さく首を振ると、その赤い瞳を俺達に向けた。
その瞬間、俺達に向けられる殺気が更に圧力を増して、背筋に冷たいものが走り抜けるのを感じた。まるで、かかってこいと言うかのような挑発的な瞳だ。
もしかしたらこの勝負、俺達は勝てないかもしれない。
尻込みしそうになる自分を叱咤しながら構えをとれば、僅かにその赤い瞳が細められた。
『……あの二人を倒してくるとは、なかなかやるではないか。地上の民よ』
低い声で言うリーダーは感心したような様子で俺を見てくる。その視線を受けながら、油断なく構えをとる。ミュウラーもまた、腰を落とし、構えを取っている。
「そりゃ、どうも。でも、頑張ったのは俺の相棒の方さ。……あんたもすごいじゃないか。ミュウラーを吹っ飛ばすなんて、早々出来る事じゃないぜ?」
構えを取りながら言葉を返せば、僅かにリーダーが笑ったのか、一度だけ瞼を伏せた。
『これでも、一族の次期族長なのでな。強くなくては仲間に示しがつかぬというものだ』
どうやら、彼は彼で背負うものがあるらしい。一族を背負わなければいけないその重さなんて俺には分からない。だが、それが彼の強さなのだという事は分かった。
それでも、俺達は負ける訳にはいかないのだ。
一瞬の空白が辺りを支配する。三人が睨み合う緊迫した雰囲気が辺りを包み込み、沈黙だけが痛い程耳に響いた。
誰が一番最初に動くのか。
緊迫した雰囲気の中で、空気だけがその微かな予兆を伝えた。
じりっと足を踏み出す音が響いた刹那、ミュウラーの姿が一瞬にしてかき消えた。
次の瞬間には間合いを詰めたミュウラーが、その凄まじいスピードでリーダーへと拳を振り下ろしていた。
だが、最初から受け身を決め込んでいたらしいリーダーはその凄まじい動体視力でミュウラーの動きを見極めたのか、振り下ろされた拳を紙一重でかわした。
ひゅっと空気を切る音が辺りに響いたのを聞きながら、走り出していた俺は地面を蹴りつけて、円状になっている下水道の壁へと足をかけた。
そのままダンダンダンッと壁を登るように駆け抜けて、リーダーの真横に走り込んだ俺は、壁を蹴りつけて跳躍すると、ミュウラーの攻撃をかわしているリーダーへと強烈なかかと落としを繰り出した。
ミュウラーに気を取られていた筈のリーダーであったが、流石に一族を代表するだけの事はある。
瞬時に真上に迫った俺の存在に気づいたのか、さっと頭を庇うように、腕を犠牲にして俺の蹴りを防いでみせた。
ずんっと俺の全体重を受け止めて、僅かにリーダーの体が沈んだものの、それ以上びくともしなかった。
全体重をのせて蹴り下ろしたというのに、まさかこうもあっさり防がれるとは。
ぶんっと振り払うように薙がれた腕に弾かれて、俺はリーダーから少し離れた位置に着地した。
ミュウラーがそんなリーダーに向かって、再び拳を閃かせた。それを身を引く事でかわしながら、リーダーは僅かに後退した。
猛攻をかけるミュウラーは逃すまいと更に追い打ちをかけようとしたのだが、リーダーから発せられる殺気にも似た気配を読みとって、ざっと一度距離を取った。
今突っ込めばやられる。
直感的にそう感じたのはミュウラーも同じだろう。寒気すら感じる嫌な雰囲気がゆらりと立ち尽くす緑色の巨体から発せられていた。
防戦一方だったリーダーは俺達をその怪しく輝く瞳で見据えると、次の瞬間、受け身から一気に攻めの体勢に移った。
地面を蹴りつけると、一気にこちらに向かって距離を縮めてきた。どうやら先に俺の方を潰すつもりらしい。
俺は繰り出される拳の雨をギリギリの所で何とか避けながら、リーダーと距離を取ろうと苦心する。
流石に、ミュウラーを吹き飛ばす程の威力を持つ拳だ。俺が受けたら一溜まりもないのは明らかだった。
リーダーの猛攻を受ける俺を庇おうと、ミュウラーが地面を蹴りつけてリーダーへと殴りかかる。俺も繰り出された拳を身を捻って回避すると同時に、更に捻りを加えてリーダーの上体に狙いを定めた回し蹴りを繰り出した。
右と左。両側から同時に繰り出される俺達の攻撃。
逃げ場のないその攻撃に、今度こそ多少なりとも相手にダメージを与えられるだろうと、俺達は確信していた。
だが、がきんっと腕を盾にして俺の蹴りを防いだリーダーは、ミュウラーが放った拳をもう片方の手をぐるりと振り回す事で、いなしてみせたのだ。
リーダーの腕によって拳の軌道を狂わされたミュウラーが僅かに体勢を崩され、二、三歩後退してたたらを踏んだ。
その僅かな間に俺を潰そうというのか、リーダーの腕が俺の足を弾いて、無理矢理俺の体勢を崩れさせた。
「――っ!?」
転ける程ではなかったものの、ぐらりとバランスを崩した俺に向かって、間髪入れずリーダーが地面を蹴りつけて特攻してきた。
まずい、このままでは……
すぐに回避行動へと移ろうとしたけれど、それよりも早く、俺の目の前に風を切って、リーダーが迫る。
一瞬にして間合いに踏み込まれ、回避も間に合わない。繰り出された拳を視界に捕らえながら、このままでは負ける、と頭の片隅で声を上げた。
先程、ミュウラーを吹っ飛ばした程の拳だ。俺なんかで耐えられる筈がなかった。
防御の態勢は取ったものの、負けを確信した俺は、走り抜けるだろう痛みを思い、身構えた。
だが、その瞬間――
『そこまでじゃっ!!』
しわがれた声が下水道の奥から響いてきて、すんでの所でリーダーの拳が俺の目の前で止まった。それに俺は、恐る恐る目の前に迫ったリーダーへと視線を向ければ、彼の視線は下水道の奥へと注がれていた。
その視線を辿るようにそちらを見れば、傍らに若いノーラを引き連れて、年老いたノーラが杖を付きながらこちらへと歩いてきていた。
もしかして、あの人は……
俺は数歩離れた位置で立ち尽くしていたミュウラーと顔を見合わせ、小首を傾げた。
『最長老っ!自らお出になるとは、どういうつもりですかっ!!』
俺と対峙していたリーダーが顔色を変えて、慌てた様子でその年老いたノーラに歩み寄った。やはり、あれが俺達の探していた最長老か。
最長老はそんなリーダーを制しながら、俺達をその視界に入れた。
『地上の民達よ。お主達がやってくる事は、このノーラから聞いて知っていたよ』
最長老はしわがれた声で言いながら、傍らのノーラへと視線を向ける。
他のノーラと異なり、額にもう一つ赤い瞳を持つそのノーラは、ぐすりと涙を浮かべながら、俺達を見据えた。
何か、泣き虫みたいな奴だな、なんてのが第一印象だった。
『このノーラは、未来を予知する事が出来る者でな。お主達が今どのような状況にあるかも、理解しているつもりだ』
最長老は静かに続けながら、俺達へと視線を戻した。最長老の言葉に俺達は驚いた瞳をその泣き虫なノーラへと向けた。
未来を予知出来るなんて、本当にそんな事、出来るものなのか。
俺達の視線に晒された泣き虫ノーラは、ひっと小さく悲鳴を上げて、縮こまってしまった。
ほんと、気弱な奴のようだ。
「それでは、何故、すぐに来てくれなかったのだ。そうすれば、このような無駄な戦いも……」
する事がなかったのではないか、そう続けるクア村長に最長老は静かに瞼を伏せた。
『……それはすまなかったと思う。だが、この若いノーラ達は血の気の多い者が多い所があるが、彼らがこれ程までにお主達、地上の民を警戒するのには理由があるのだよ』
そこで一度言葉を切り、最長老はその瞳を開いた。過去を思い出したのか、僅かに悲しげな光が揺れている。
『……かつて、先代の最長老を地上の民に殺された事があるのだ。勿論、今のお主達よりも、何代も前の者達だがな』
……なるほど、それで、最長老に会わせようとしなかったのか。
どんな経緯でそんな事になったのかは分からないが、そんな事があれば確かに警戒するというものだ。
最長老の言葉を静かに聞いているリーダーへと視線を向ければ、彼は何も言わずただ俯いている。彼は彼で、一族を守る為に必死だったという訳だ。
『……まぁ、言い訳はこれくらいにして、本題に入ろうではないか。地上の民よ。お主達が来たのは、大方予想がつくがな』
最長老に促され、クア村長が最長老の前へと足を踏み出す。それを見ながら、俺は立ち尽くしているミュウラーの側へと歩み寄った。そんな俺の側に、メルも走り寄ってきた。
「一緒に戦ってくれて、ありがとな。メル」
苦笑を浮かべ、くしゃりとその色素の薄い髪を撫でてやれば、にっと照れたような笑みが返された。
そのままメルが光の粒子になり、俺の中に戻ってくる。
結局、決闘自体はお流れになってしまったが、メルがいてくれて本当に助かった。
感謝するように契約印の場所をさすり、俺は最長老とクア村長へと視線を戻した。
「……さて、では本題に入らせて貰うが、そちらも知っている事かと思うが、このアクアリースが魔物達の標的にされ、明日の朝にはここは戦場となる事になった」
静かに話を始めたクア村長は、暗く沈んだ顔で最長老を見据えた。その表情はひどく疲れているように見えて、彼の心労を物語っているようだった。そんなクア村長を見つめ、表情の読みとれない最長老の瞳が、僅かに細められた。
「……我々、島に住む人間達によって虐げられてきた魔物達が、我らからこの島を奪還しようというらしい。……確かに、貴方達魔物にとって後から島にやってきた我々はただの侵略者なのかもしれない」
ふっと、僅かに自嘲するように瞳を伏せるクア村長。そのまま、クア村長は言葉を継いだ。
「だが、それでも我らは退く訳にはいかない。ここは私達の街なのだ。街に滞在していた冒険者達の協力を得て、既に迎え撃つ準備も始まっている。……しかし、戦う事の出来ない力のない者も多く、地上との通路であった洞窟も何者かに崩され、地上とは孤立している現状だ」
現在の状況を説明するクア村長は、ゆっくりとその瞼を開いた。
「正直な所、勝敗はどうなるか分からない。崩された洞窟を街の人々が復旧させようと努力はしているが、どれ程の魔物達が押し寄せてくるか、現状では把握し切れてはいない。我々が敗北すれば、貴方達ノーラ族にも迷惑がかかると、その危険性を私は危惧している」
緑色の小さな瞳が、真っ直ぐに最長老の赤い瞳を見据える。その瞳を真っ向から受けて、最長老はふぅっと小さく溜息をついて、瞳を伏せた。
『……確かに、どんな形であれ、我々は魔物達の理を破り、お主達人と共存する道を選んだ。そんな我々が、今更魔物達の仲間には戻れぬだろうな。……そうなれば、我らはかつて同胞だった者達に蹂躙されるだけ、と。そう言いたいのだろう?水の街の長よ』
「………………」
静かに問いかける最長老の言葉に、クア村長は僅かに目を細め、沈黙した。周りのノーラ達がざわざわと小声で話している声が、静かな下水道の中でやけに響いた。
あまりの事態にノーラ達も動揺しているのだろう。
『……黒か白か……我らに選択させようと言うのか。水の街の長よ?……お主達と共に戦い、住処を守るか。はたまた、お主達を滅ぼし、魔物達の元へ戻るか……何ともまぁ、酷な選択をさせるものだな。水の街の長よ』
ふっと、今まで無表情だった最長老の顔に、自嘲するかのような笑みが浮かべられる。その赤い瞳を細めながら、クア村長を観察するように、最長老の瞳が静かに揺らいでいた。
「……出来る事ならば、貴方達の助力を得たいと思っていたのは確かだ。……だが、貴方達は争いを好まない。不干渉と言えど、長年我らと共存してきた貴方達が、かつて同胞だった者達に黙って蹂躙される姿は出来る事なら見たくはない。……貴方達が望むのであれば、共に地上へ逃げるという選択肢もある。洞窟さえ復旧すれば、活路はあると思っている。……どうだろうか、最長老殿」
手を差し伸べるように、クア村長は真っ直ぐに揺らぐ最長老を見据えた。共に行こうと誘うクア村長の言葉に、最長老はどのような返答を返すのか。
沈黙したまま、ただクア村長を見据える最長老の様子を見つめたまま、俺達は静かにその返答を待った。
一分、いや実際には数秒だったろうか。
沈黙が辺りを支配し、重苦しい雰囲気だけが俺達の間をすり抜けていく。
耳に痛い程の沈黙が鳴り響いているような感覚に耐えていると、やがて結論を出したのか、最長老がゆっくりとその口を開いた。
『……お主の申し出、ありがたく思う……だが、我らはお主達、地上の民とは共には行けぬ』
瞼を伏せ、顔を俯かせながら、最長老は静かに拒絶を口にした。その様子に、クア村長はある程度予想していたのか、わかったというように小さく頷いた。
『……我らはこの下水道以外では生きられぬ。此処を離れては、生きてはゆけぬのだよ。我らの食物は、此処でしか手に入らぬのだからな』
俯いたまま、静かに続ける最長老の言葉はひどく沈んだ響きを持っていた。
確かに、此処で発掘される鉱石は特殊で、地上の鉱石では彼らの栄養源にはならないという事か。そうなると、ノーラ達が敵となる事もあるという事だろうか。
俺は嫌な予想をたててしまい、僅かに警戒心を煽られた。だが、そんな俺達の心を見透かしたのか、最長老は静かに言葉を継いだ。
『……我らは共には行けぬ。だが、お主達を手にかける事も我らの望む所ではない。故に、我らは第三の選択をさせて貰おう』
敵対したくないと、はっきりと告げるその言葉。彼らにとっても、長年共存してきた者達と争いたくはないという事か。
しかし、ここで下せる第三の選択とは。
俺はクア村長を見据える最長老を見つめ、その言葉の続きを待った。
『……我らは、此処よりも尚、暗き場所へ。そこならば、魔物達も容易には近づけはせぬ。お主達の助力となる事は出来ないが、どうか、理解してくれ。……我々は、どちらとも争いたくはないのだ』
はっきりと意志を告げる最長老の言葉は、揺らぐ事はなく。
魔物でありながら、人と共存する道を選んだが故の苦悩。そんなものを垣間見たような気がして、俺は最長老を見つめた。
出来る事ならば、戦いたくはない。それは、俺達も同じだ。
だが、それでも戦いを避ける事が出来ない事もある。
戦わないですむのなら、その方がいい。しかし、守りたいもの、譲れないものの為には、戦わなければいけないんだ。
彼らの選択が間違っているとは思わない。戦いを避ける事は決して悪い事ではないと思うから。
彼らには彼らの考え。俺達には、俺達の考えがあるのだ。
違うからこそ、対立があり、理解し合えるのだ。
俺達の理屈を、彼らに押しつける事は出来ない。決断を下した最長老の言葉に、クア村長は静かに瞳を伏せた。
「……わかった。苦渋の決断、ありがたく思う。貴方達の無事を祈っている。そして、いつの日か、相まみえる日が来る事を」
すっと顔を上げ、クア村長が最長老へと、友愛を込めて右手を差し出した。その右手を取って、最長老は静かにその瞳を細めた。
『……お主達の道は苦境に満ちている。だが、叶う事ならば、もう一度、お主とは会ってみたいものだ。……さらばだ。水の街の長よ』
静かに別れを告げて、最長老のしわがれた手がクア村長から離れる。ノーラ達はその言葉を合図に、静かに下水道の奥へと向かって歩き始めた。
どうやら、最長老が言った通り、此処より更に暗き場所……俺達には想像も出来ないが、そこへ移動しようと言うのだろう。
静かに最長老とクア村長の対談を見守っていた群れのリーダーもまた、歩き出した仲間達と共に歩き出そうとしていた。
だが、何を思ったのか、ふっと俺とミュウラーの方を見据え、口を開いた。
『……勝負は結局つけられなかったが、お前達は強かった。またいつの日か、正式に手合わせしてみたいものだ。……その時まで、死ぬなよ。地上の友よ』
僅かにその赤い瞳を細めながら、リーダーが静かに言った。その表情は、随分穏やかで、笑っているようにも見えた。
どうやら、俺達を強き者と認めてくれたらしい。
そんなリーダーの横に、いつの間にか、最長老の隣にいた泣き虫ノーラが歩み寄っていた。
こそっと、リーダーの後ろに隠れながら、俺達を見つめる泣き虫ノーラ。
俺達に、何か言いたい事でもあるのだろうか。
『……あの……一言だけ、言わせて下さい』
おどおどしている泣き虫ノーラは俺達を見つめ、小さな声で声をかけてきた。続きを促すように彼を見つめていると、それを了承と取ったのか、おずおずと話し始めた。
『……貴方達の前には、とてもとても厚い壁が広がっています。暗く、黒い絶望の闇が貴方達を押しつぶそうとするでしょう。……だけど、道は必ず繋がっている。自分を見失いさえしなければ、光は差すでしょう。……どうか、忘れないで』
まるで、俺達の未来を見透かしているのか。赤く輝く三つの瞳で俺達を見据え、泣き虫ノーラは予言するかのように、静かに告げた。
自分を見失うな……か。感情にまかせ、突っ走るだけでは道は開けない。
分かっていても、難しい事ではあるがな。
泣き虫ノーラはそれだけを告げると、ぺこりと頭を下げて、逃げるように背を向けて仲間達を追っていった。
その後ろ姿を見送りながら、リーダーが僅かに苦笑したように肩をすくませた。
『……それでは、さらばだ。地上の友よ。……お前達に、戦神の加護を』
最後にもう一度、俺達を振り返ったリーダーは静かにそう告げると、俺達に背を向けた。
すっと、後ろ手に小さく手を振りながら、彼は仲間達を追って、歩き去った。
その背中が下水道の闇の中に消えていくのを見送りながら、俺達もまた踵を返した。
街に戻って、やる事はまだまだあるのだ。
黙々と街へと戻る俺達の間に、一言の会話もなかった。
結局、ノーラに助力を得られなかった俺達の現状は変わる事はないのだ。
だが、それでも、明日の朝には魔物達は攻めてくる。
何処までやれるのか。戦力はどれ程なのか。分からない事ばかりが、山積みになって、俺達に押し寄せてくる。
俺達の不安を煽るかのように、下水道の闇が重くのし掛かってくるような気がした。
そのまま黙々と不安に立ち向かうように歩き続ける。靴音だけが壁に反響して虚しく響いた。
やがて、闇がようやく終わりを告げるように、道の先に光が見えた。
下水道の出口から漏れる光を見つけ、この重苦しい雰囲気からようやく解放されるだろうと密かに安堵を覚えた。
出口に足をかけ、俺達はノーラ下水管を後にした。
外に出れば、地上から差し込む光が水に反射して、明るく辺りを照らしている。
今まで暗闇に慣れていただけに、それがやけに眩しく思えた。
色合いから察するに、そろそろ夕刻、といった所か。
遙か上の方で、見る事は出来ないが、この海底の上には地上が広がっているのだ。
普段は気にもしなかったけれど、今はなんて、遠い所だろうかと思う。
揺れる水を見つめながら、俺はしばしの間、見える筈のない空を仰いだ。
「……すまなかった。結局、無駄足を踏ませてしまったな」
沈黙を破り、クア村長が俺達に謝罪をするように小さく言葉を零す。それにレスターは首を振り、
「クア村長が謝る事ではない。我々は、全力を尽くして街を死守する。それは変わらない。だから、村長も毅然とした態度で街の者を指揮して欲しい。……大変な事ではあると思うがな」
我々を信じてくれ。そう告げるレスターの言葉に、僅かに気落ちした様子だったクア村長の瞳に少し力が戻った。
「……すまない。ありがとう、冒険者諸君」
小さく震える声で、クア村長が俺達に礼を告げる。それにレスターが胸を張ってみせ、
「大船に乗ったつもりで任せろ、クア村長。我々は“命知らずの馬鹿共”だ。そう簡単にやられたりはしない」
僅かに笑みを含みながら、演説の時使った言葉で不敵な笑みを浮かべてみせた。
その様子に、クア村長が僅かに目を細めて笑った。
彼の心労は相当なものだとは思うが、ここが正念場だ。意志の強さをその瞳に僅かに取り戻しながら、クア村長は真っ直ぐに前を見据えた。
「では、我々はそれぞれ持ち場に戻るぞ。ミュウラーも、わざわざすまなかったな」
「いや、役に立てたならついていった甲斐があったというものだ。防衛戦、よろしく頼むぞ」
「……ああ。任せろ」
ミュウラーは労うように言葉をかけてくるレスターに笑いかけると、去り際に一度俺の方にひらりと軽く手を振ってみせ、洞窟の復旧作業の方へと戻っていった。
それを見送りながら、俺達も部隊のみんなが待っているであろう外壁の方へと歩き出した。
きっと今頃、またメノーが疲れた、飽きた、だの言ってヴァレフやヴェンレクスを困らせているのだろうか。
まぁ、彼らの事だ。それぞれマイペースにやっているだろうとは思う。
現実逃避をするように、みんなの事を思い出しながら、俺は一人苦笑が浮かぶのを感じた。
だけど、どんなに逃避しようとしても、目の前に迫るものは変わらない。
俺達の本当の戦いはこれからなのだと、待ち受けている苦難を思い、踏み出す足がひどく重く感じた。
だが、それでも、前に踏み出さなければいけないのだ。
俺達は、“前に進み行く者”。それが、冒険者。それが俺達の生きる道なのだ。
業を背負い、それでも尚、前へ。
俯きそうになる自分を叱咤して、顔を上げて真っ直ぐに前を見据える。






目の前に広がる苦境を踏み越える為に、俺は足を踏み出した……





続く……



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comment

  1. 2009/06/07(日) 22:33:01 |
  2. URL |
  3. ヴェン
  4. [ 編集 ]
体調のほう良くなられたとのことで安心しました^^ノ
第3弾まだ全部は読んでいないのですが、楽しませていただきました♪ありがとうございます><
ヴェンや他の皆様を表現するのって難しそうですけど、相変わらずキャラを掴んでいてすごいなーと思いました!
各オリジナルキャラの性格付けも立ってますねー!これだけの文を書くのは相当ホネがおれそうです・・・!でも文章を書けると退屈しないブログを作れて、羨ましい限りですv
続きも無理せずマイペースにがんばって下さいネv

  1. 2009/06/11(木) 20:46:08 |
  2. URL |
  3. れあちー
  4. [ 編集 ]
遅くなりました。レスです(`・ω・´)ノ


>ヴェンさん

ご心配をお掛けしましたですよー。お陰様で、何とか元気になりましたよー。
第三章も読んで頂いたようで、ありがとうございまするm(_ _)m
しかし、皆さんを好き勝手に表現しておりますが、あんな感じで良いのでしょうか;
もう試行錯誤の繰り返しですw
作業ペースが遅いので、お待たせしまくりで申し訳ないです><
ですが、めげずに最後まで書けるよう頑張りますっ(`・ω・´)ノ
これからも、拙い文章ですが、宜しくお願いしますです(☆゜д゜)ニヤリw

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