タイトル通り、不定期更新のブログです。 気が向いたとき、更新すると思います。 内容としては、オンラインゲーム「トリックスター」「ラテール」などを中心とさせて頂いております。(時々日常のことなども書くかもです)

れあちーのきまぐれにっき

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アクアリース攻防戦 第二章

  1. 2009/02/02(月) 02:08:05|
  2. TS版SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
はい、予定していた肯定がうまくいかなかった、れあちーです(ぁ




おかしいなぁ……なんか、どんどんエピソードが増えるy……orz





二章で予定していた終わりまで行かなかったので、更に内容が伸びそうです。





ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ……m(_ _)m






と、言う訳で、四章でも、終わらなそうですが、のんびりと、おつきあいして下さると、嬉しいなぁ(ぁ






今回は、NPCのたーんになってしまいましt……(ノд`@)





おっと、あと、今回文章の一部に月光庭園のサージェン様の素敵SSの文章を一部、引用させて頂いております。そちらのSSの内容は、こちら→我ら咎人の群れ




であ、それでも宜しければ、続きをどうぞー(`・ω・´)ノ




「この僕に喧嘩をふっかけたその根性に免じて、今日の所は見逃してあげるよ。精々、このイベントを楽しむ事だね。……まぁ、たかが冒険者に出来る事なんて限られてると思うけどね」
……そう言って、その男は不敵な笑みと共に何処かへと消えていった。
目の前に広がる大惨事の光景に、男が去り際に残したその言葉がぐるぐると頭を駆けめぐるのを感じながら、俺は自分がするべき事の、その答えを求めていた。
「……一体……これは、何……?」
そう零した槙宮の声は、普段の気丈さを感じさせない程に震えている。
ゴーストブルー入り口にある小さな町。それが今、魔物達の大群によって破壊されている。
建物が壊れる音。逃げまどう人々の悲鳴。燃え上がる火の手。魔物達の咆哮。
色んな音が、ただ立ち尽くす俺の耳をすり抜けていく。
こんな状態で、たかが一介の冒険者である俺達に何が出来る。
そう、心の何処かで、もう一人の自分が俺に問いかける。
確かに、目の前に広がるこの光景は、大惨事としか言いようのない程のものだ。
だけど、だからといって、ここでただ見ていていい訳がないだろう。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
近くの建物の影から絹を引き裂くような女性の悲鳴が響き渡る。誰かが、魔物に襲われようとしているのか。
……悲鳴なんて、町の至る所から発せられている。魔物に体を引き裂かれ、断末魔の悲鳴を上げる者も少なくはない。
俺の出来る事なんて、たかが知れている。だけど、それでも、何か出来る事があるのなら。目の前で襲われようとしている人を助ける事くらいなら、俺にだって出来るはずだ。
出来る事を、やるべき事を、成せ。
頭の中で、心が、そう叫んだ気がした。
俺は意を決して、凍り付いていた足を踏み出した。
一歩踏み出せば、弾かれたように、もう片方の足もついてくる。
ぎりりと、光を反射する銀色の銃を握り締めるその手に力を込めて、俺は地面を蹴りつけた。






アクアリース攻防戦  ~名も知らぬ彼らの英雄譚~ 
    第二章   争いの輪舞曲は高らかに






「はあぁぁぁぁぁぁっ」
俺は目の前に迫る青い鱗を持つトカゲへと一気に距離を詰め、銃口を押しつける程の距離で引き金を引き絞る。
水を震わせる破裂音を響かせて、銀色に輝く俺の銃口が弾丸を吐き出した。
こいつらの鱗は想像以上に固い。銃士である俺にとって、距離を縮める事は危険を伴うのだが、こうでもしなければ、こいつらの鱗を破る事は出来ない。
ゼロ距離射撃をまともに食らったそのトカゲは、衝撃に一度身体を震わせると、肉を引き裂かれる痛みに悶絶し、やがて白目をむいて海底に倒れ込んだ。
俺の放った弾丸は、青トカゲの鱗を砕き、その中の柔らかい部分へと深く、深く突き刺さったのだ。
生き物を殺す感覚は、いつ味わっても、あまり気持ちの良いものではない。
だが、それでも、自分を守る為、目の前で襲われようとしている人を助ける為には、命を奪い続けなければいけない。
……以前、知り合いから言われた事が頭を過ぎ去る。
血の大河を越えて、俺達がある以上、俺達は生きて行かなければいけない。立ち止まるな。と。
その通りだと思う。俺達は、何百、何千と、魔物達の命を糧に、これまで生きてきた。
いや、魔物だけではない。この世界中に生きる生き物たちの命を糧に、俺達は存在しているのだ。
その奪った命の分だけ、俺達は前に進む。進まなきゃいけないんだ。
だから、こんな所で死ぬ訳にはいかない。
俺は再び、目の前に迫ってきた魔物へと銃口を向け、引き金を引き絞る。
零れ落ちる薬莢が、海底に落ちて、からんと鳴ったのをどこか遠くに感じながら、俺は進む足に力を込めて、駆け抜けた。
「誰か、誰かいないのか?」
俺は声を張り上げ、生存者を捜す。町の中は瓦礫の山と化し、所々で火の手が見える。
本来であればゴーストブルー地域にはいる筈のない魔物達が、我が物顔で町の中を蹂躙しているその光景は、まさに悪夢、だった。
ゴーストブルー入り口に辿り着いた俺達がまず最初にやった事は現状確認。アクアリース直通のテレポート施設は、近くにいた冒険者や町の人々のおかげで、今もなお稼働している。
だが、ゴーストブルーからマリンデザートへ続く洞窟は、既に使い物にならない状態となっていた。先程、俺達がゴーストブルーへ来る前に起きた地震の所為で、落盤したそうだ。
まるで、あらかじめ逃げ道を塞いだような、そんなきな臭さを感じるタイミングでの落盤。
この襲撃が計画的なものである可能性が非常に高い。あの怪しい青年の件もある為に、その可能性をどうしても考えてしまう。
とりあえず、アクアリースへ戻る事は出来るという事で、俺やミュウラー、その他、動ける冒険者数人で、町の中に残った生存者がいないか、確認をしている所だ。
槙宮には他の冒険者と共に、テレポート施設の守備に加わって貰っている。町の外は魔物の巣窟となっている。唯一の脱出経路を絶たれる訳にはいかない。
既に大半の住民達の避難は完了しており、後は残された者がいないかの、最終確認だけだ。
ゴーストブルー入り口に辿り着いた時には既に夕刻を過ぎ、夜の時間が始まっていた。
深海である為に、太陽の光など期待出来ないが、常に海底へと降り注ぐマナの光が昼よりもなお輝いて、夜はそれが光源となる。
おかげで深夜の時間にさしかかろうとしている現状でも、光を見失わずにすんでいる。
俺は近づいてくる魔物を銃で撃ち抜きながら、町を疾走した。
「えーい、こっちに来ないで下さーーい!!」
町の中を走り抜ける俺の耳に、甲高い少女の声が聞こえてくる。どうやら、まだ生存者がいたようだ。俺は走る足に力を込めて、声が聞こえた方へと走った。
「マジックアローーッ!!」
杖を振りかざし、短い詠唱の言葉が聞こえる。どうやら魔術士、のようだ。声のする方から光が溢れ、近寄っていた魔物達の群れがその光の矢に貫かれ、海底に倒れ込んだ。
……なんか、やけに強そうな人だな。
俺は魔物の影から現れたその姿を見て、ああ、なるほど、と一人納得する事になった。
「セフィーラさん、大丈夫か?」
紫色のとんがり帽子に同色のマント。そして黒猫を連れたその出で立ちの少女に見覚えのあった俺は、彼女に近づこうとしていた魔物へと銃弾を浴びせながら、彼女の側へ走り込んだ。
それに少女、セフィーラはどこか安堵した様子で俺の姿をその紫色の瞳に映した。
魔法の先生としてメガロカンパニーで働く彼女の力は絶大で、こんな魔物達などあしらえる程の力量を持っているはずだ。それが何でこんな所にまだいるんだ。
「あんた程の人が、どうしてこんな所に……早く、避難を……」
疑問を感じながらそう声をかけ、セフィーラの側へ走り寄った俺だが、彼女の側にいる存在に気がついて、言葉を途中で飲み込んだ。
「そ、それが……ポプリさんが……」
彼女の側に座り込んだ毛むくじゃらなその物体。ふわふわの毛皮を持つ大きなその生き物は、寝ぼすけだが、穴掘りの名人と言われている亜人、ポプリだった。
まぁ、これは余談だが、一説によれば、宇宙からやってきたのではという説もある程、ポプリの存在は謎に包まれている。
「このポプリさんは、夢遊病の治療の為にここに来ていたんですが……その発作が出てしまって……起きてくれないんですぅ」
泣きそうな顔でセフィーラはポプリを揺り起こす。だが、眠りこけるそのポプリは一向に目を覚ます気配を見せない。なるほど、だから彼女はずっとここでポプリを守って奮闘していたという訳か。
彼女を見ると、服のあちこちが僅かにすり切れている。相当な魔物と戦っていたのであろう事が窺い知れる。
「ポプリ、起きろよ、ポプリ!」
俺もセフィーラと共にポプリを揺さぶってみるものの、やはり効果はない。流石にそんな大柄ではない俺では眠りこけたポプリを担いで連れて行く事は出来ない。体格のあるミュウラーでも、難しい所だろう。
どうしたものか、と僅かに顔をしかめ、何か、起こせるようなものはないかと、腰のカバンを漁ってみる。
確か、ポプリを起こす為の、何か強力なものがあった筈だ。
俺はごそごそとカバンをひっくり返し、目的のものを探した。
「マジックリング!!」
荷物をひっくり返す俺に代わり、セフィーラが近づいてきた魔物に向けて光の輪を放つ。やはり、魔法の先生だけあって呪文の詠唱が素早い。
そんな事を僅かに考えながら、俺は目的の物を発見した。
「あった、これだ」
俺はカバンの中から一つの目覚まし時計を引っ張り出した。
以前、ポプリダンジョンを訪れた時に、目覚まし時計を作っているポプリを手伝った事がある。その時もらったこの、超強力目覚まし時計が役に立つ時が来るとは。
流石に俺が使うには、これはうるさすぎる。寝ぼすけなポプリを起こす程強力なものだ。一般人には使えないな、流石に。
「セフィーラさん、耳、塞いでて。……これで、起きてくれよな、ポプリ」
俺はかちかちと目覚ましをセットし、ポプリの側に置いて、慌てて耳を塞いだ。




じりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!




一瞬の間を置いて、それは本当にけたたましい音で鳴り響いた。耳元で鳴り響くそれに、流石に夢遊病な彼も目が覚めたのか、はわわっと慌てた様子で飛び起きた。
飛び起きたポプリは慌ててその目覚ましを止めると、目の前の光景にきょとんとした様子で辺りを見回した。
そりゃ、いきなり目が覚めたらこんな地獄絵図のような状態じゃ、状況がつかめないよな。
「ポプリさん、大変なんです。魔物達が攻めてきて、一刻も早く避難しないといけないんです」
セフィーラは座り込んだままのポプリに簡潔ながら状況を説明する。俺はポプリから目覚まし時計を受け取ると、再びカバンの中へと放り込んだ。
「おはよう、ポプリ。早速で悪いが、ここから移動しないといけないんだ。歩けるか?」
俺は座り込んでいるポプリを立ち上がらせ、声をかける。それにポプリは僅かにとろんとした瞳を俺に向けながら、こくりと頷いた。
どうやら、あれだけ強力な目覚ましでも、まだ眠いようだ。
立ち上がったものの、まだふらふらしているその様子ではまともに歩けそうにもなかった。
俺は仕方なく、銃を背負い、ポプリに肩を貸して歩き出す。
セフィーラがいてくれて良かった。こんな状態では、魔物を退ける事なんて出来ない。
半ば強引にポプリを歩かせながら、俺達はテレポート施設への道を急いだ。
だが、世の中そう甘いものではないらしい。
ポプリを起こす為に使った超強力目覚ましの音は強烈で、近くにいた魔物達を呼び寄せる結果となってしまったようだ。
俺達の行く手を遮るように魔物達がずらりと集まってくる。
それにセフィーラは杖を構え、俺も空いている手で上着の袖からデリンジャーを取り出し、魔物達を睨み付けた。
こんなふらふらなポプリを連れた状態で何処まで戦えるか。セフィーラも随分消耗している。無事に切り抜けられるのか、と僅かに不安が胸を歪ませた。
だが、その瞬間。
「ラフィオーーーーーーッ!!」
声を張り上げ、走り込んでくる影が一つ。よく見知ったその影が、剣を構えてこちらへと駆けてくる。ミュウラーだ。
ざんっと目の前に広がる魔物達を斬り伏せながら、彼は俺の側へ駆け寄ってくる。セフィーラもまた残っている力で魔力を振るい、ミュウラーと共に魔物の殲滅に力を貸してくれた。俺も微力ながら、近づいてきた小型の魔物をデリンジャーで撃ち抜いた。
ミュウラーの参戦のおかげで、俺達の周りに集まっていた魔物達は見る見る間に殲滅されていった。流石に、こうしてみるとミュウラーは腕利きの冒険者なんだなと今更ながらに実感する。時々、ヘマをやらかしていじける事はあるけれど、それでも、やはり仲間として頼もしく思う。
駆けつけてくれたミュウラーに感謝しながら、俺は彼を見上げた。
「悪い、ポプリが夢遊病の発作で一人じゃ歩けないんだ。力を貸してくれ」
俺は簡潔に状況を説明すると、ミュウラーはわかったと頷いて、俺とは反対側からポプリを支える。流石に俺と違って体格がいいだけあって、ポプリをちゃんと支えている。
俺ではのろのろ歩くのが精一杯だったが、ミュウラーのおかげで随分早くなった。
おまけに、ミュウラーが俺達の元へ駆けつけるまで、道すがらの魔物達を殲滅してきてくれていたようだ。おかげでその後は魔物と遭遇する事もなく、テレポート施設へと帰り着く事に成功した。
本当に、ミュウラーが来てくれなかったらどうなっていた事か。隣で息をつくミュウラーに心の底から感謝した。
「ミュウラー、ラフィ、大丈夫?」
ポプリを半ば担いだ状態でテレポート施設へと戻ってきた俺達の姿を見つけて、数人いる冒険者の中から槙宮が飛び出し、心配そうな表情で俺達を迎え入れる。
「ミュウラーや他の人は帰ってきたのに、ラフィだけ帰ってこないから、何かあったんじゃないかって心配したわよ。怪我はない?」
「ああ、大丈夫だ。心配させて悪かった」
眠そうなポプリを他の冒険者に任せた俺は、泣きそうな表情で詰め寄ってくる槙宮に苦笑を浮かべる。どうやら相当心配させてしまったようだ。
ただでさえ、今はこんな状態だ。どんな事が起きても不思議じゃない。
槙宮には心配をかけさせてしまったな、と僅かに罪悪感を感じながら、とりあえず無事で良かったと、みんなの無事を喜んだ。
「町の中は全部見て回った。後は、ここに残る俺達だけだ」
ミュウラーはぐるりと狭い室内を見回して、そう告げる。ここに残っているのは、この施設を守っていてくれた冒険者が数名と、ここの管理者である金髪の女性キャスター、ミランダと俺達だけだ。
俺達は魔物達をあらかた退けた後、魔物達が入ってこられないよう、施設の扉を閉めて、扉の前に中にあった机や椅子をかき集めて、バリケードを作り上げた。
これで、しばらくは入ってこられないだろう。
「さあ、早く皆さんも脱出を」
バリケードを作り終えた俺達をそのきりりとした青い瞳で見つめ、ミランダは防衛してくれていた冒険者達に告げる。
その意志の強そうな瞳には、この施設を預かる者としての責任と覚悟が揺れていた。
「……ミランダさん、あんた、まさか……」
俺の予想が正しければ、ミランダはある事を決意している。俺の言葉にミランダは図星を指されたのか、僅かに瞳を逸らした。
「……誰かがやらなければいけないんです。大丈夫、私にはこの携帯電話がありますから」
そう言って彼女は黒塗りの携帯電話を俺達に見せた。それは、携帯電話とは名ばかりの、簡易テレポートの為の小型モバイルだった。
その携帯電話の中にはカバリア島に存在する町へのコードが入力されており、一度だけその場所へテレポートする事が出来るという便利な代物だ。
……そんな便利なものがあるのなら、テレポート施設なんていらないじゃないか、と、誰もが思うかも知れないが、メガロカンパニーが作り上げたその携帯電話にはある欠点があった。
それは、制作コストがかかる為に、一つの値段が馬鹿高いのだ。
しかも、それが使い切りとあれば、尚更手を出す冒険者は少なかった。
その為、持ち歩いている者は極端に少ないというのが現状だ。
彼女はそれを俺達に見せ、最後までここに残る事を宣言した。
「ここにこの施設を残しておけば、アクアリースへ魔物達が押し寄せてしまうかもしれない。だから、私が皆さんを送り出した後、ここを爆破します」
ミランダはそう言って、意志の強い瞳で俺達を見据えた。
「しかし、危険じゃないのか?一人で残るだなんて……」
ミュウラーがそんなミランダへと声をかけるが、ミランダの意志は変わらないようだ。
「大丈夫です。そう時間はかかりません。……それに、この施設を預かっているのは私です。施設のシステムを動かせるのは私しかいませんし、心配しないで下さい」
さあ、早くテレポート台へ……と、彼女は優しく微笑むと俺達を促した。
確かにこの施設のシステムを動かせるのは彼女しかいない。けれど、本当に大丈夫なのだろうか。
島に来る前は、双子で売れっ子のニュースキャスターであった彼女。冒険者ではない彼女が一人で残ろうとしているその覚悟は、相当なものだろう。僅かに彼女の手が震えているのを見てしまい、俺達は自分の無力さに歯がみしながら、彼女の意志に従った。
「では、皆さんをアクアリースへ転送致します」
テレポート台に俺達が乗った事を確認したミランダは、パソコンを操作してテレポートシステムを起動する。
だが、その瞬間、ガン、ガンッと魔物達が扉を叩き始めた。どうやら、また集まってきてしまったらしい。
まずいな、バリケードは作ったものの、ここの扉はそれ程頑丈な作りをしていなかった。
大量の魔物達が一斉に衝撃をかければ簡単に開いてしまうだろう。
そうなると、残されたミランダが……
ミランダもその事実を理解しているのか、焦った様子でパソコンを操作している。
テレポート台が僅かに光を放ち始め、転送のプロセスが始動した……のだが。
ドカンッと扉が吹っ飛ぶ音が狭い室内に木霊する。魔物達が遂に扉を破り抜いたのだ。
グルルと僅かに喉を鳴らしながら、俺達をその血走った目で見据えた魔物達は、バリケードをガタガタと壊し始めた。
ぶんっと魔物の一匹が振り払った机がパソコンの側にいるミランダへと襲い掛かる。
「きゃぁっ」
ミランダは咄嗟にその場を飛び退いて、床に転がるようにしてその机をかわした。
狙いのはずれていたその机は機器にはぶつからず、壁に激突して床に落ちて転がった。
機器を壊されなかったおかげで、テレポート台が更に光を放ち、転送の準備が完了した。
だが、俺はある事に気がつき、銃を背から下ろすと躊躇う事なく、テレポートの寸前でその台を飛び出した。
「ラフィッ!?」
背後から槙宮とミュウラーの驚いたような声が聞こえたけれど、悪い、こんな状態でミランダを置いていけないんだ。
先程転んだ所為で、ミランダが手に持っていた携帯電話を床に転がってしまったのだ。
そして、それをバリケードを崩して入ってこようとしている魔物の一匹が、容赦なく踏み潰した。
それを目の当たりにしてしまった俺は、馬鹿な事だとわかっているけれど、テレポート台を飛び出したのだ。
銃口を入ってきた魔物達に向けて、引き金を引き絞る。乾いた破裂音が響き、銃弾が魔物達を強襲する。
そんな俺の背後で、ミュウラーと槙宮を乗せたテレポート台が起動し、彼らをアクアリースへと転送した。
悲鳴じみたように俺の名前を叫びながら、彼らの姿はその場からかき消えた。
「ミランダさん、大丈夫か?」
俺は魔物を退けながら、転んでいるミランダを助け起こす。それにミランダは俺を見上げ、
「……なんて、馬鹿な事を……」
と、俺の行動に信じられないというような表情を浮かべて見せた。
それに俺はただ苦笑を返し、
「放っておけなかったんだ。ごめん」
と、ただそれだけを返し、再び魔物達へと向き合った。
バリケードのほとんどは既に壊されている。唯一の幸いは、扉が小さい事。
両開きの扉があるだけで、窓すらないこの施設は、魔物達はそこからしか入ってこられない。一度に入ってこられる量は限られている。
「……爆破システムの設定にどれくらい時間がかかる?」
銃を撃ちながら、再びパソコンへと向かったミランダへ声をかける。それにミランダは僅かに顔をしかめながら、
「五分……いえ、三分あれば……」
と、簡潔に応えた。
それくらいなら、なんとか俺一人でも持ちこたえられるか。
俺はぺろりと上唇を舐めながら、引き金を引き絞った。
かたかたとすごい勢いでキーボードを叩く音が背後から聞こえてくる。
俺は次から次へと魔物へと狙いをつけ、その引き金を引いていく。
扉の側にはどんどんと魔物達の死骸が折り重なっていく。
それを後から入ってくる魔物達は、容赦なく踏みつけながら、次から次へと押し寄せてくる。そんなに俺達をその牙で、爪で引き裂きたいのかよ。
俺はぎらりと殺気を放つ魔物達を見据え、僅かに舌打ちをした。
「……爆破システムを自動に設定したわ。私達をアクアリースへ転送した二分後に爆発するわ」
「了解。じゃあ、そのままアクアへの転送準備してくれ」
ミランダの報告を背中に聞きながら、俺は魔物達を退けつつ、腰のバックの中から何本かの小さな小瓶を取り出した。
琥珀色の液体が揺れるそれを、俺は扉の方に向かって投げつける。
魔物達の側の壁に激突したそれは、がしゃんっと硬質な音を立てて砕け散ると、中の液体を周りにまき散らした。
水に解け合うように周りに広がったそれは、ぶわりと魔物達の周辺を漂った。
「準備出来たわ!早く、台に乗って!!」
システムを起動し終えたミランダは、素早くパソコンの前から離れ、テレポート台に乗った。それに習い、俺も最後にバックの中から黒い球体を数個取り出し、魔物達へと投げつけると、素早く光り始めた台へと向かって走った。
少しの間を空けて、ピピッと音を立てて、それが爆発する。その炎は先程俺がまいた琥珀色の液体の引火剤となり、ごぉっと魔物達の行く手を遮るように炎を膨れ上がらせた。
「……高級洋酒?」
ミランダの言葉に俺はぺろりと舌を出し、にやりと笑って見せた。
そう、俺が先程投げた液体は高級洋酒だ。純度の高いアルコールは着火剤になる。
俺は酒なんか飲まないけど、気付けや消毒なんかにも使えるから、何本か持ち歩くようにしている。それがこんな形で役に立つとは。備えあれば、憂いなし、という奴だな。
俺がテレポート台へと走り込むと、その瞬間、まばゆい光を放ってテレポート台が起動した。
ふわりと体が宙に浮くような浮遊感を味わったその瞬間には、俺達の姿はゴーストブルーからかき消えていた。






一瞬にして世界が入れ替わる感覚。光に遮られた視界が、全く別の場所を映し出した頃には、俺達の転送は完了していた。
テレポート台に俺達が姿を現すと、周りからワッと声が響いた。それに俺はきょとんとした顔で辺りを見回すと、泣きそうな顔でこっちを見ている存在と目がかち合った。
先程転送された冒険者達がまだその場に留まっていたらしく、槙宮とミュウラーの姿もそこにあった。
槙宮は涙を貯めた瞳で俺を見つけると、突進する勢いで俺の方へと向かってきた。
「ラフィの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿ーーーーーーーーっ!!」
ごすっといい音を立てて、槙宮の怒声と共に繰り出されたパンチが俺の腹を直撃した。
ぐ、なんつー……不意打ち……
見事に鳩尾に入った衝撃に、俺はよろよろと腹を押さえてよろけた。
「……っ……なに、するんだよ……」
げほりと咳をしながら、俺は涙目で槙宮を見上げた。だが、槙宮は俺以上の涙目で、俺を睨み付けていた。
「あんな無茶して……心配したんだからねっ!!」
肩を震わせて、力一杯に俺を怒鳴る槙宮。もう知らないっとそっぽを向いてしまう。
あちゃぁ、相当怒らせたみたいだ。
俺はそれに困ったなと、顔をしかめた。
そこへいきなり、無防備な俺の頭にごんっと鉄拳が振り下ろされ、その衝撃にぐらりと一瞬世界が歪んだ。
「……い……つぅ……」
上から鉄拳を降らせた存在は、やはり俺を見下ろし、怒った瞳を向けている。
俺はあまりの痛みに頭を押さえ、その存在を見上げた。
「……ミュウラー……あんたまで……」
じんじんと痛む頭を押さえ、俺は睨んでくるミュウラーを見上げた。それにミュウラーは一度だけ目を瞬くと、その瞳から怒りの光を消した。
「これでチャラな。……お前に無茶するなって言っても、“馬の耳に念仏”だろ?なら、ちゃんと生きて帰れ。それだけでいい」
ミュウラーはそれだけを言うと、怒っている槙宮を宥めてくれる。確かに、無茶するなって言われても、俺は聞かないだろう。
その時の感情や衝動に任せる傾向があるけれど、なるべく実力以上の事はしないよう気をつけているつもりではあるが……周りから見ると、やっぱり不安にさせるのだろうな。
いまだ怒っている槙宮に、ごめんな、と頭を下げる。それに槙宮は怒った表情のまま、ただ頷いた。
そんな俺達の側へ、先程共に転送されてきたミランダが歩み寄ってきた。
「……彼を怒らないであげて下さい。彼は私を助ける為に残ってくれたのだから……」
ミランダは困ったような表情で、怒っている槙宮へと声をかける。それに槙宮はわかっていると顔を俯かせた。
なんとか、ミランダのおかげで、槙宮の怒りも下がりそうだ。今度はこっちが助けられてしまったな、と僅かに苦笑が浮かんだ。
と、そんな俺にミランダは歩み寄り、俺を見下ろした。
……く、俺の方が背が低かったのか……
「……私がここにこうしていられるのも、貴方のおかげよ。ありがとう、冒険者さん」
そう言って、ミランダはすっとその顔を俺に近づけた。
……え?何事?
ちゅっと、軽い音を立てて、柔らかいものが俺の頬に触れる。
俺は一瞬何が起こったのか理解出来ず、呆然としてしまった。
すっと顔を離したミランダは、僅かに頬を染めた顔で、にっこりと俺に極上の笑みを浮かべて見せた。
ミランダが、俺の頬に、キスを、したのだ。
その光景を目の当たりにしていた周りの冒険者達は、ひゅーひゅーと口々にはやし立てる。
状況を理解した俺は、みるみる顔が熱くなるのを感じ、動転した。
良いな、良いな、とか、憎いねこのー、とか、口々にはやし立てる冒険者達の視線と言葉が痛くて、俺は顔をしかめる。
うるさいぞ、お前らっ!!
「お、俺は別に、た、対した事はしてないっ!……は、早く、モンスターギルドに報告に戻るぞっ!」
俺はそこにいるのが辛くて、少し早口でそう言い捨てると、慌ててその場から離れるように歩き出した。そんな俺の様子がおかしいのか、槙宮とミュウラーがくすくす笑いながらついてくる。
くっそ、何だって言うんだよ、ホント。
ほっぺたにキスされたのなんて、養母さんや姉ちゃん以外、初めてだよっ!
彼女なりのお礼のつもりなのだろう。しかし、他に方法はなかったものなのか。
俺は熱くなった顔を見られるのが嫌で、大急ぎでその場を後にした。
テレポート施設から出ると、街の中の様子を見回した。
深夜といえど、今は緊急事態だ。今はまだ魔物達の襲撃を受けてないとはいえ、先にアクアリースへ避難した人達の情報で、街の中は煌々と明かりを灯されていた。
ゴーストブルーから避難してきた人々が、いまだ恐怖を抱えたまま、幾人も路地に座り込んでいるその様子に、あれだけの事があった後なのだから、仕方ない事だよな、と思いながら、俺達はモンスターギルドへと急いだ。
だが、辿り着いたモンスターギルドは扉を閉められ、そのノブには閉店という看板が掛けられていた。
そうだよな。今は深夜帯だ。モンスターギルドを現在運営しているのは11歳の女の子だ。
非常事態とはいえ、起きているとは考えにくい、か。
どうしたものかと、俺達は顔を見合わせ、途方に暮れた。
と、そこへ、見覚えのある三人組が歩いてくるのが見えた。あれは……
「お前ら、ミラに用事か?」
その中の一人が呆然と立ち尽くす俺達に声をかけてくる。モノクルをかけ、緑色のベレー帽をかぶったその出で立ちの……島にいるほとんどの冒険者を敵に回しているその男、ネイトは俺達を見据え、その瞳を僅かに細めた。
「ミラさんが何処にいるのか、知ってるのか?」
俺はネイトを見上げ、問いかけると、ネイトの隣にいたメイド姿の少女がすっと街の奥の方を指差した。
「メガロカンパニーの社員とモンスターギルド員はクア村長の元でこれからの事について会議しております。お急ぎのご用でなければ、明日の朝にでも出直された方がいいかもしれませんよ?」
真っ白な兎の耳を揺らし、フレンチメイドは穏やかな顔で微笑んだ。
「その事で話があるんです。クア村長はどちらに?」
槙宮はフレンチメイドへ視線を送ると、フレンチメイドは一度考えるように視線を揺らしたが、すっと奥を指差した。
「あそこに見えるお家ですよ。では、私達もそろそろ行かなくては……」
そう言って、フレンチメイドは他の二人へと視線を送る。それにネイトともう一人、こちらもネイトと同じく、色んな武器を破壊する鍛冶士として有名なマックスは、すっと俺達の横をすり抜け、歩き始めた。
「何処へ?社員はクア村長の下で会議ではないんですか?」
槙宮は通り過ぎようとする彼らの背に、問いかける。それにマックスはその褐色の瞳を俺達に向け、
「儂らはこれからクア村長の判断で、街の扉を閉鎖に行くのだ。お前さんらも、外に出るなよ?外は魔物達の大群が待ち伏せているからな」
と、俺達に注意を促しながら、そのまま街の入り口の方へと向かって歩き始めた。
フレンチメイドは去り際に、ごきげんよう、とお辞儀をして、先に行った二人を追って歩き去った。
このアクアリースには強固な外壁がある。背面は大きな山によって守られており、その山には二つの洞窟が地上とこの海底を繋いでいるという、まるで城塞のような作りをしている。
元々は海底に沈んでいた古代遺跡であったそうだが、それを再利用してメガロカンパニーが街としての礎を作ったらしい。そして、そこへ冒険者や商人、住民などが集まり、一つの街となった。
強固な外壁がある事によって、魔物が大量発生してしまった現在でもなお、無事にすんでいるのだろう。もし、ここの守りが崩れる事となれば、この街は魔物達に飲み込まれる。
その前に避難をするのか、それとも、迎え撃つのか。
クア村長とメガロカンパニーの社員達は、その事についての話し合いをしているのだろう。
一刻を争う自体である事は、どうやら、皆が理解している事のようだ。
俺達はフレンチメイドに教えられた建物に辿り着き、その扉をノックした。
「……はい、どちら様ですか?……現在会議中ですので、お急ぎでない方は……」
少しの間を空けて、中からひょっこりと顔を出したのは、先程共にゴーストブルーから避難してきたセフィーラだった。
セフィーラは俺達の姿を見ると、その紫色の瞳を大きく見開いた。
「貴方達も無事だったんですね。よかったですぅ」
俺達より先にポプリと共にアクアリースへ帰還した彼女。どうやら、先にこちらの方へ招集されていたようだ。俺達へにっこり微笑みかけながら、お互いの無事を喜んでくれた。
「……セフィーラさん?どなたが来られたんですか?」
そんな俺達の会話を聞いて、セフィーラの後ろから、目的の人物、ミラがひょいっと俺達を覗き込んでくる。
それに俺は、ミラから渡されていた魔物の計測器を取り出し、彼女へ差し出した。
「ゴーストブルー北部であった事について、報告したい事がある。悪いが、俺達も中に入れて貰えないだろうか」
ミュウラーが俺達を代表して、ミラ達に告げる。それにミラとセフィーラは一度顔を見合わせた。
「……かまわん。入って貰え」
返答に困っているミラとセフィーラに代わり、中から老人の声が響く。それにそちらへと視線を向けると、このゴーストブルーをまとめ上げている人物、クア村長が立っていた。
「今は一刻を争う事態だ。どんな情報も無駄には出来ない。入りなさい」
「……失礼致します」
クア村長から直々に許しを貰った俺達は、軽く一礼して、中に入らせて貰った。
中には大きなテーブルと何脚かの椅子があり、会議室として使われている建物なのだろうと、容易に想像がついた。
中を見回すと、クア村長の他に、ミラとセフィーラ、ミランダの双子の妹であるミラボー、倉庫と銀行を預かっている二人の女性社員、リサとアンジェリナ、そして、カバリア島とその近海の航海を任されているスタン船長の姿があった。
俺は持っていた計測器をミラに手渡した。
「……それで、君達は何を見たのかね?」
椅子に座り直したクア村長は、すっと腕を組むと俺達をその緑色の瞳で見定めるような視線を向けてきた。
それに俺達は一度顔を見合わせ、先程ゴーストブルー北部で見た事を説明した。
大量に発生した魔物達。巨大化したイソギンチャク。そして、魔法陣と謎の男の存在。
そして、その直後、ゴーストブルーが襲撃されていたという所まで話し終え、俺達は彼らの反応を待った。
静かに俺達の話を聞いてくれていたクア村長は、話を聞き終えると、沈痛な面持ちで小さく溜息をついた。
確かに、こんな得体の知れない冒険者からの報告なんて、何処まで信憑性があるかなんて判断しにくい所だ。
俺だって、自分たちが見てきた事が信じられないくらいだ。
信用して貰えないかもしれないと、一抹の不安を覚えながら、俺達はクア村長の返答を待った。
「……話はわかった。謎の人物と魔法陣……これが、この事件の発端かもしれないと言う君達の疑問も納得出来る。しかし、それだけでは……」
クア村長は苦虫を噛みつぶしたかのように顔をしかめながら、言いづらそうにそう口にした。確かに、それが分かったからといって、これからの事の対処には何の役にも立たないだろう。あれだけの魔物がいたのだ。今更、あの魔法陣が何であったのか、調査に行く事も出来ない。それに言葉にはしていないが、どうもクア村長は俺達の素性を怪しんでいるようにも見て取れる。やはり、信用しては貰えなかったか、と僅かに失望が胸を過ぎ去るのを感じた。
「……お言葉ですが、クア村長。彼らは魔物に襲撃されていたゴーストブルーで最後まで人々の避難に協力してくれた冒険者達です。私がここにこうしていられるのも、彼らのおかげです。彼らが見てきた事は、おそらく事実であると、私は確信致します」
そんな俺達に助け船を出したのは、セフィーラだった。彼女は紫のその瞳でキッとクア村長へ向け、俺達の弁護をしてくれる。信じてくれようとしているセフィーラに感謝しながら、俺は会議の行方を見守った。
「……あ、いけない、忘れてたわ」
と、いきなり沈黙を破って、俺の横にいた槙宮が素っ頓狂な声を上げる。それに俺達は何事かと彼女へと視線を集めた。
彼女はごそごそとポケットの中から一つの手帳を取り出し、目的のページを開くと、それをセフィーラへと差し出した。
「これは、その魔法陣の写しです。……私では、この魔法陣の意味をその場で知る事は出来ませんでした。でも、魔法の先生である貴女なら……」
分かるかもしれない。そう期待を込めて、槙宮はその手帳をセフィーラに手渡した。
……って、あの戦闘の中、いつそんなものを書き写したんだよ。
あの後すぐにゴーストブルーへの移動に移ったから、書き写しているような素振りもなかったくせに。
普段はうっかり極のくせに、時々ちゃっかりしているんだよな、槙宮は。
そんな俺の視線に気がついたのか、槙宮はにっこりスマイルで、何か言いたい事でもあるか、と無言の圧力をかけてくる。
いえ、もう、何でも良いです……
俺はそんな槙宮から視線をずらし、触らぬ神に祟りなし、と関わる事を拒否した。
「……すみません。私にもすぐには判断出来ませんね……」
魔法陣の写しを眺めていたセフィーラは申し訳なさそうに、そう零した。魔術の先生である彼女にも即座には判断出来ないという事は、相当厄介な代物なのだろう。
「何種類かの陣が混ざり合っているような……こんな魔法陣は見た事がありません。これは、調べてみる必要がありますね」
セフィーラは槙宮から渡されたその写しを、自らの手帳に書き写し、槙宮に手帳を返却した。
と、手帳を受け取った槙宮であったが、その瞬間、くきゅるるるぅという、小気味のいい音を立てて、何かが鳴った。……この音は、もしかして……
「……あ……あははは……」
かぁっと顔を赤くしてお腹を押さえた槙宮は、乾いた笑いを浮かべる。もしかしなくても、槙宮の腹の虫だ。その音は、緊張感を崩すには十分な破壊力を持っていた。
「……確かに、昼にここを出発してから、飲まず食わずでずっと戦い詰めだったからな……」
すかさずミュウラーがそんな槙宮のフォローに入る。そういえば、そうだった。
意識すると俺まで腹が減ってくる。今まで緊張状態だっただけに、その反動はでかいようだった。
「……とりあえず、報告は承った。君らの働きには感謝している。……ゴーストブルーから避難してきた人々は、街の奥の方の広場でキャンプを張っている。そちらで炊き出しなども行っているから、今日はもう休みなさい」
明日になればどう状況が変化するか、わからないのだから。そう言って、クア村長は俺達に休むよう、進言してくれる。
俺達は一度顔を見合わせると、その意志に従って、会議室を後にした。
とりあえず、伝えるだけは伝えたのだ。後の事は、クア村長達の判断に任せるしかない。
一介の冒険者である俺達にとって、この問題はやはり大きすぎるのだ。
ようやく戦いから解放された俺達は、どっと疲れが押し寄せるのを感じながら、奥の広場の方へと向かった。
色とりどりのキャンプがいくつも、広場を埋め尽くす程の勢いで立てられている。
俺達はそれを見回しながら、どうするか、と顔を見合わせた。
「あれ?ねーさま?」
そんな俺達の姿を見つけたのか、背後から聞き覚えのある声が響く。それに俺達は驚き、そちらへと視線を向けた。
大量の食材を篭に入れて、青色の髪の羊族の少女が、きょとんとした様子で俺達を見ている。彼女の名前は、ルビールビー・藍華・エーデルシュタイン。俺達と同じ冒険者であると共に、メガロポリスに自らのカフェを持っているお嬢さんだ。
そんな彼女が、何故こんな場所へ。
俺達は久々の彼女との再会に、驚きを隠せなかった。
「ルビーちゃん、どうしてここに?」
槙宮もまた疑問にかられたのか、ルビーに問いかける。それにルビーはにっこりと微笑み、
「なんか、アクアリースの方が大変だって聞いて、携帯で飛んで来ちゃった。……そしたら、ゴーストブルーの人達が避難して来るじゃないですか。だから、炊き出しのお手伝いを……」
と、彼女がここに来る事になった経緯を話してくれる。自らカフェを経営しているだけあって、彼女の料理の腕は一流だ。そんな彼女が炊き出しを手伝ってくれているのであれば、料理の味は期待出来そうだ。
なんて、そんな事を考えていた俺は背後から近づいてくる存在に気がつかなかった。
「あー、みーつけたー」
「っ!?」
もさっとしたものが、背後からいきなり俺を捕まえ、間延びした声を上げる。俺はあまりの事に仰天し、びくっとしっぽが逆立った。
もっさりとして、ふわふわした毛皮に包まれた大きな腕を持つ存在は一つしか思い浮かばない。俺は恐る恐る上を見上げ、俺を抱き込んでいる存在を見上げた。
「ポプリ、目が覚めたのか?」
「うんー、君達が助けてくれたおかげで、ボクも無事にアクアリースに来られたよー」
ありがとねーと、何とも間延びした口調でポプリは俺達に礼を告げる。どうやら、夢遊病の発作が治まったらしく、今は眠くないらしい。
「……さっきはごめんねぇ。ろくにお礼も言えなくて。こっちに来てから、君達を捜してたんだけど、見つからなくてさぁ。会えて良かったよぉ」
ポプリはにへらと穏やかな顔で笑い、俺の頭をポンポンと撫でた。
…………何だか、複雑な気分だな。
と、再びくきゅるるるるぅと槙宮の腹が鳴る。どうやら、相当お腹が空いているらしい。
「あははは……ルビーちゃん、何か食べ物ある?私達、昼から何も食べてなくて……」
槙宮は苦笑を浮かべ、ルビーに訪ねると、ルビーはキャンプの奥の方を指差した。
「奥の方で炊き出しやってるから、何か貰ってきますね。この辺で待ってて下さいー」
ルビーは篭を持ち直すと、奥に向かって歩き出した。それに槙宮は慌ててその後に続き、
「私も手伝うわ。ミュウラーとラフィはこの辺で待っててね」
と、それだけを俺達に告げると、ルビーと共にキャンプの奥の方へと消えていった。
残された俺達は、どうしたものかと顔を見合わせ、とりあえず適当な場所にでも座って待とうという事で、腰を下ろせそうな場所を探して、適当に座った。
何故かポプリまでついてきて、俺の横にどかりと陣取った。
……なんか、懐かれたのか?
そういえば、俺が持ってても不要なものがあったな。
俺はふと、ある物を思い出し、それをカバンの中から引っ張り出すとポプリへと手渡した。
「それ、あげる。俺が持ってても使わないし、夢遊病の発作が出た時に緊急事態になると大変そうだから、持ち歩いとけ」
先程ポプリを叩き起こした超強力目覚まし時計。それを手渡すと、ポプリは嬉しそうな顔をして俺に頬ずりしてきた。
ああ、くそ、この毛皮、想像以上にふわふわしてやがる。
その毛皮の温かさと心地よさに眠気を誘われるのを感じ、まずいな、と思った。
ふと隣を見ると、俺と同じくポプリを背もたれにして座っていたミュウラーが、かくんとうなだれている。
どうやら俺と同じく、この毛皮の柔らかさにやられたらしい。
ミュウラーもずっと戦い詰めだったからな。相当疲労していたんだろうと、起こさないように注意を払った。
けれど、俺の方も眠気に耐えられそうにない。
ようやく安全になったという安堵感からか、本当にどっと疲れが押し寄せてきた。
確かに腹も減っているが、それよりも何よりも、本当に疲れた。
俺はポプリに寄りかかりながら、瞼が自然と落ちるのを感じた。
瞼を閉ざせば、暗闇が押し寄せてくる。
遠くの方から誰かの足音がする。鼻孔をくすぐる料理の香りを感じる所から、料理を取りに行った槙宮とルビーだろうと想像がつく。
けれど、瞼が重くて、目を開けられない。
彼女達は寝こけている俺達の存在に気がついたのだろう。近くでくすりと笑う雰囲気が伝わってきた。
その記憶を最後に、俺の意識は夢の中へと彷徨っていった。








まどろむ意識が、覚醒を始めるように動き出す。
覚醒を迎える前の状態は、ひどく不安定だ。自分が何処にいるか、わからないような状態で、ふわふわと意識が浮いているような感覚。
それがゆっくりとなくなって、覚醒を迎える。
しかし、その肯定が終了する前に、大きな地響きによって、俺は強制的に覚醒させられた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッと、すさまじい音を立てて海底が振動する。
あまりの振動と衝撃に、俺はかけられていた毛布をはねのけ、起きあがった。
近くで寝こけていたミュウラーや槙宮、ルビーもまた、あまりの振動に飛び起きる程、この地震はでかい。
まるで、何かが崩れるような感覚。その揺れに、昨日の出来事が思い出させられ、まさかな、と浮かんだ考えを否定したくなった。
やがて、地響きも収まり、揺れが穏やかになっていく。
だが、それと共に、周りの様子がざわついていく。そして、誰かが叫ぶ。
「大変だ、みんな、こっちに来てくれっ!!」
すごい剣幕で叫ぶその男。その様子に、ひしひしと嫌な予感を駆り立てられ、俺達は男が呼ぶ方へと駆け出した。
そして、辿り着いた先で見たものは……俺の想像通りのものだった。
「…………な、なんという事だ……」
俺達同様、集まってきた人々の中に、クア村長の姿もあった。
クア村長はよろよろと信じられないという面持ちで、崩れ落ちた洞窟の入り口を見つめていた。
そう、アクアリースから地上へ続く洞窟が、先程の地震で崩れ落ちたのだ。
「……駄目だ、もう一つの方も崩れてるっ!!」
誰かがもう一つの洞窟の方も確認に行ったのか、その事実を報告してくれる。
二つの洞窟が、同時に崩れるなんて、そんなの出来過ぎている。
俺はきな臭さを感じ、洞窟の入り口へ近寄った。
「……おい、近づいたら危ないぞ」
クア村長が無造作に近づく俺の様子に、慌てて止めに入る。だが、その時には俺は既に目的のものを見つけていた。
「……これは、人為的なものだ……」
俺は見つけたそれをクア村長へ見せる。焼けこげたダイナマイトの破片。相当な量が使われた事が窺い知れる。その欠片を見たクア村長は、青ざめた顔でただ唇を噛みしめた。
これで実質俺達は、アクアリースに閉じこめられる事となった。
街の外は魔物が待ち伏せ、地上へ続く洞窟は崩れ落ちた。俺達を逃がしたくない何かが、この洞窟を爆破したのだろう。
やはり、あの謎の人物の事が頭を過ぎ去り、これは何かの陰謀ではないのかと、言いしれぬ不安が胸を疼かせる。
「……クア村長、大変ですっ!!」
と、そんな俺達の元へ、人混みをかき分け、焦ったような表情を浮かべたミランダが駆け寄ってくる。相当焦っているのか、その顔色はひどく青ざめていた。
「……私、止めたんですけど……妹のミラボーが……数人の冒険者と共に……ゴーストブルーへ……」
「なんじゃとっ!?」
息を切らせ、ミランダは泣きそうな顔で、妹がいなくなった事を報告する。どうやら、元々ニュースキャスターであった彼女は、このゴーストブルーの異変を、他の街へ知らせなければと考え、簡単な放送機材を持って、単身ゴーストブルーへと夜のうちに出発してしまったらしい。
今頃はもう、ゴーストブルーへ辿り着いている頃だろう、とミランダは言う。
「……そろそろ、放送が開始される頃です……」
ミランダはミラボーが姉宛に置いていった手紙を握り締め、泣きそうな表情で唇を噛みしめた。それにクア村長は顔をしかめ、会議室の方へと向かった。
偶然その話を聞いてしまった俺達も、同行させて貰う事となり、俺達はクア村長の後に続き、会議室の扉をくぐった。
既にそこには昨日いたメンバーが揃っている。クア村長は会議室の奥にあるテレビのスイッチを入れ、チャンネルを合わせた。
すると、画面には昨日ここで見かけた金色の髪の穏やかな瞳をした女性が、真剣な表情を浮かべて映っていた。
『カバリア島に住む皆さん、お早うございます。TBN放送局のキャスター、ミラボー・ウォティです。私は今、昨日突然魔物に襲撃を受けたゴーストブルーに来ております』
ミラボーは僅かに声を潜めながら、レポートを続ける。カメラが僅かにミラボーから移動し、町の様子を映し出す。
すぐ近くに魔物達の姿は見えないが、破壊された家々が映し出され、状況の悲惨さを伝えている。
『見て下さい。この悲惨な状況を。住民の多くは、その場にいた冒険者達に救助され、今はアクアリースへと避難しております。けれど、アクアリース近海にも魔物達の大群が待ち伏せているような現状です。……何故、こんな事になってしまったのか、原因は今だつかめておりません…………あ……きゃぁっ!?』
ミラボーはそのまま、レポートを続けていたのだが、僅かに映像がぶれる。そしてそれと共にミラボーの悲鳴が聞こえ、がたんっとミランダが青ざめた顔で立ち上がった。
俺達の間を緊張が駆け巡る。しかし、ここからでは、助けに行く事なんて……俺はぎりりと拳を握り締めた。
『……あー、もしもーし。映ってるー?』
ガタガタと映像がぶれた後、テレビから流れた音声は、ミラボーの声ではなかった。低い男の声が響き、やがて姿が映し出された。赤髪の牛族の男のどアップが映し出され、僅かにぎょっとさせられた。
『……ミク。カメラに近すぎだ。』
『へーい。……ほら、何もしねーから、ちゃっちゃかレポートしてくんない?キャスターのおねーさん』
『は、はい……』
牛の男がミラボーにレポートを続けるように促す。ちらりとカメラが僅かに地面を映した後、ミラボーを映した。どうやら、ミラボーは無事のようだ。
だが、先程地面を映した時に、ちらりと見えたものに嫌な予感を感じる。
どうも、一緒にゴーストブルーへ向かった冒険者らしき影が、地面に転がっていた。
このテレビに映っている男達は何者なのか。ミラボーが続けるレポートを固唾を呑んで見守った。
『……あ……貴方達は何者ですか……?……何故、このような場所に……』
ミラボーは青ざめた表情で、震える声を隠す事も出来ず、近くに立っていた狸族の男へとマイクを向けて問いかける。カメラがミラボーと、金色の髪を持つ狸族の男を映し出した。
『……我々は、今回のこの襲撃事件を企てたグループだ。私はそのリーダーを務めている者だ』
『あ、貴方がこのゴーストブルーに魔物を放った、張本人ですかっ!?』
テレビから流れたその音声に、俺達はただ驚き、息を呑み込んだ。いきなり、親玉のご登場とは……しかも、堂々とテレビに出るとは……なんて奴だ。
妹がそんな存在と対峙しているという事実に、ミランダは卒倒寸前だ。真っ青な顔を更に白くして、今にも倒れそうだ。心配した槙宮が彼女を椅子に座らせる。成り行きを見守るしか出来ない事に、ただ悔しさが滲む。
『……な、何故、このような事を?ゴーストブルーに住む人々に、何か恨みでもあったのでしょうか……?』
『恨みなどという、容易いものではない。……これは、カバリア島に住む魔物達からの宣戦布告だ。我々は彼らに、ほんの少し手を貸したに過ぎない。ゴーストブルー襲撃は、彼らの意志である事を、まずは伝えておこう』
金髪のその男は、髪と同色の金色の瞳でカメラを見据えると、そう言い放った。
魔物達からの宣戦布告。……そんな事があり得るのか?
俺は疑問に駆られながら、男の言葉を待った。
『彼らは、このカバリア島の本当の支配者だ。メガロカンパニーや冒険者共に虐げられてきた彼らの怒りはとても根深く、強いものだ。そこで、我々は彼らに力を貸し、今回の襲撃事件を企てた。……もう一度言おう。これは彼ら、魔物達からの宣戦布告であり、この島に住む魔物達の総意である。よって、私は言葉の話せない彼らに代わり、代弁しよう』
男はそう言うと、一度言葉を切った。それに俺達は固唾を呑んで、テレビの画面を凝視した。
『……っ、何が、宣戦布告だっ!!ふざけるなぁっ!!!』
と、そこへ、ミラボーと共に行ったらしき冒険者が立ち上がり、演説をする男に向かって襲い掛かった。だがその振り下ろされた剣は男には届かず、いきなり画面に現れた青髪の獅子族の青年に防がれた。
その姿は間違いなく、俺達が昨日、ゴーストブルー北部で見かけた、あの青年だった。
同じく画面を見ていた槙宮とミュウラーも、それに気がつき、僅かにあっと、声を上げたのが聞こえた。
『……はいはい、邪魔しないでくれるかなぁ?良い所なんだからさぁ』
短いナイフを持ったその青年は、襲い掛かったその冒険者に容赦なく刃の洗礼を与え、鮮血が舞うのが画面の端に映った。
ミラボーの悲鳴が響き、彼女はマイクを取り落とした。それを狸族の男は拾い上げた。
『……レーヴェ、あまり刺激的なものを流すな』
『はーい。すいません、トコロスさん』
全然謝ってないその様子で、先程の青年はぺろりと舌を出した。
……人を殺す事を何とも思ってない奴だ。
よくそんな奴を相手にして、生きて帰れたものだ。今更ながら、あの時の寒気を感じ、ぎりっと拳を握り締めた。
『……では、改めて代弁しよう。……これはこの島に住む魔物達と、それを荒らす人間達との戦いだ。戦争をしよう、冒険者諸君。そして、勝った方がこの島を支配する。……我々は手始めに、アクアリースへと侵攻する。死にたくなければ、全力で抗い賜え。我々は全てを踏みつぶしに行こう。……まぁ、冒険者などに、防衛戦など出来ないだろうがな』
……く、言ってくれる。逃げ道を塞いで、戦争もへったくれもあるものか。
これは戦争なんかじゃない。ただの虐殺だ。
ここには数多くの戦えない一般市民がいる。その状態で戦えなどと、ふざけるのも大概にしろ。
『……もう一度繰り返そう……』
その言葉を聞いたクア村長は、一度目を閉じると、何かを決断したのか、カッと眼を見開いて、近くにあったマイクのスイッチを入れた。
それは、街全体につけられたスピーカーにより、村長の言葉などを放送する為のものだった。
まさか、この放送の内容を流すつもりなのか。俺達はあまりの決断に驚き、クア村長を見た。
『これはこの島に住む魔物達と、それを荒らす人間達との戦いだ。戦争をしよう、冒険者諸君。そして、勝った方がこの島を支配する。……我々は手始めに、アクアリースへと侵攻する。死にたくなければ、全力で抗い賜え。我々は全てを踏みつぶしに行こう。……まぁ、冒険者などに、防衛戦など出来ないだろうがな。……では、我々は明日の朝一で戦闘を仕掛ける。それまで、精々恐怖に震えているがいい』
テレビから流れる音と、それとはまた別に会議室の外からも、男の演説の言葉が聞こえてくる。狸族の男はそれだけを言うと、テレビのカメラの電源を切った。
ザザザッと砂嵐が流れ、放送は中断された。
……ゴーストブルーへ残されたミラボーは、果たして無事なのか。
ミランダは青ざめた顔で、震えていた。
先程の演説が流れた街の外がざわざわと騒がしくなる。
こんな内容の放送を流してしまっては、街はパニックになってしまうだろう。
ただでさえ、洞窟が崩れ落ちた直後なのだ。
これでは、街の人々が暴徒化してしまうのではないか……俺は、不安を抱えたまま、マイクを手に取ったクア村長を見た。僅かに緊張で手が震えている。
クア村長は、一度深呼吸をし、唇を開いた。
「……アクアリースにいる全ての諸君。先程の放送は、現在ゴーストブルーで行われていた中継からの内容だ。……彼らは魔物達の代弁者だと名乗り、このアクアリースへ侵攻する事を明言した。……ここは戦場になる。そして、もう皆が知っている事であると思うが、先程の地震により、脱出経路であった洞窟は崩れ落ち、街の外には魔物達が押し寄せている。……そこで私は、皆に言いたい事がある。……これから十分後、街にいる全ての者は、中央広場に集まってくれ。我々は、運命共同体だ。私も動揺しているが、皆もどうか、落ち着いた行動を取って欲しい。……それでは、十分後に広場の方で」
そう言って、クア村長はマイクの電源を落とした。
震える手でマイクを手放したクア村長は、大きく溜息をつき、疲れ果てた様子で椅子に座った。そんなクア村長を心配して、ミラが透明なパックに入った水を手渡した。
それを受け取ったクア村長は、疲れた表情で、僅かに苦笑を浮かべた。
「……みんなも聞いての通りだ。広場の方へ移動してくれ。私も、すぐに行く」
小さく息をついた後、クア村長は力のない声で、そう言った。その言葉に俺達は従い、先に広場の方へ向かう事を決めた。
妹の安否を気にして、ひどく憔悴しているミランダの様子が気になり、槙宮とルビーが彼女を宥める。そして、そのまま、彼女らと共に、人が集まり出している中央広場へと辿り着いた。
集まってきた人々の顔はどれも、暗く沈んでいて、恐怖の色が見て取れた。
何だってこんな事に……近くをすれ違った人の零したその言葉に、俺は僅かに唇を噛みしめた。
と、そこへ、先程までテレビに映っていた筈のその人がふらりと現れた。
僅かに青ざめた顔で、ふらふらと歩いてくるその姿に、我が目を疑ったミランダだったが、やがて涙を流しながら抱きついた。
「ミラボーッ!!」
「姉さん……」
ぎゅっと双子の妹を抱き締めるミランダ。それにミラボーは自分が帰ってこれた事を実感したのか、その大きな瞳に涙を浮かべた。
「貴女って子は……おばかなんだからっ!!あんな危険な事して、もしもの事があったら……私、私……っ」
ミラボーを抱き締めたミランダは、ぼろぼろと涙を零し、ミラボーを怒った。それにミラボーは反省しているのか、ぽろぽろと涙を零し、うんうんと、何度も頷いた。
「……無事だったんだな、ミラボーさん……けど、どうして?」
ミュウラーの問いかけにミラボーは、抱き締めてくるミランダの腕を抜けた。
「……先程の方達が、私をこのアクアリースへ転送を……何か、魔法のようなものだったみたいでしたが、私には何だかさっぱり。……光に包まれたと思ったら、ここにいたんです。だけど、私と共に行った冒険者の方々は……」
ミラボーはそう言うと、悲しげに目を伏せた。やはり、共に行った冒険者達は、あのまま彼らによって……辛い思いをしてきたミラボーの肩を、ミランダはそっと優しく撫でた。
そこへ、中央広場に備え付けられた台の上に、クア村長とその他、メガロカンパニーの社員達が姿を現した。
広場の中は集まってきた人々で溢れかえり、ざわざわと動揺が波のように広がっていく様子が見て取れた。
「……皆の者。よく集まってくれた。……私は、この街に住む一個人として、皆に話したい」
マイクを持ったクア村長は、そう言って話を始めた。そのマイクは、先程の放送器具と同じく、クア村長の声を、街のスピーカーへと繋いでいる。
そのおかげで、ざわざわとざわめく雑踏の中でも、クア村長の声を聞き逃さずにすむ。
「……先程の放送でも言ったように、この街は、明日の朝には戦場となる。そして、周りは魔物達に囲まれ、唯一の脱出経路であった地上への洞窟も、今は使い物にならない状態となってしまった。……ここには、昨日ゴーストブルーから避難してきた者や、戦う力のない一般市民も多い。それでも、魔物達はここへ侵攻してこようとしている」
クア村長は沈痛な面持ちで、静かに現状を説明する。それに人々は動揺を隠せず、ざわざわとどよめき立つ。
そのどよめきに真っ向から立ち向かって、クア村長は真っ直ぐと街にいる全ての者達を見据えている。
「……我々の目の前には、絶望が迫っている。その事実は変えられない。だが、その絶望に抗う事は出来る筈だ。……私は皆に、アクアリースに住む一個人としてお願いしたい。この状況を打破する為には、皆の協力が必要だ。幸い、この街は山に囲まれた立地条件と強固な外壁がある。籠城し、街の皆で手分けをして崩れた洞窟を掘り起こすのだ。そうすれば、活路が開けると、私は信じている」
クア村長は打開策を繰り出し、皆の協力を要請する。だが、その打開策に疑問を投げかける存在がいた。
「洞窟を掘り起こすって、あの落盤じゃ、何処まで崩れているかなんて分からないじゃないかっ!」
街の人か、冒険者か、どちらにせよ、誰もが疑問に思う事を、その人物はクア村長に問うた。確かに、あの地震は相当なもので、かなり奥まで崩れたのではないかと予想される。
中なんて確認出来ていないクア村長は、ぐっと言葉を詰まらせた。
だが、助け船は思わぬ所から出された。
「はいはーい。その事については、ボクが応えるよぉー」
のほーんとした、間延びした声。ぴょんぴょんっと手を挙げて飛び跳ねるその存在は、昨日助けた夢遊病ポプリだった。
クア村長の招きで台の上に乗ったポプリは、村長からマイクを受け取ると、その質問に答えた。
「えっとねぇ。さっき洞窟を見てきたけど、そんなに奥までは崩れてなさそうだったよ。まぁ、深くても、ざっと三分の1くらいだと思うなぁ。みんなで手分けして掘り進めば、二、三日で通れるようになると思うよぉ」
穴を掘る事に関しては天性の感を持つポプリの証言は強烈だった。ポプリはそれだけを言うと、ぴょんっと台を飛び降りていった。
ポプリのおかげで、信憑性が増した為か、それ以降、意見を出す者はいなかった。
と、今度はクア村長に代わり、ミラがそのマイクを手に取った。
「……皆さん。聞いての通りです。私達は、協力しなければ生き残る事は出来ません。魔物達はどんどんと活性化して、通常であればこの地域にいない魔物まで現れています。彼らは、私達を全力で滅ぼしにかかってきます。……こんな所で、死んでしまって良いのですか?皆さん方の帰りを待つ人や、愛する人や守るべき人を、こんな形で悲しませて、本当に良いのでしょうか?……戦う事でしか、守る事が出来ないと言うのなら、戦いましょう、皆さん。……確かに、戦う事は簡単な事ではありません。けれど、これは他人事ではありません。私達、一人一人がやれる事を、全力でこなし、生きる為にみんなで協力しましょう。それがいずれは、私達の未来を切り開いてくれます。だから、皆さん、私達に力を貸して下さいっ!!」
マイクを握ったミラは、力の限りの声で協力を要請する。その言葉に、誰もが胸が熱くなったのか、先程まで渦巻いていた動揺が静まり始めていた。
マイクを握っているのは年端もいかない11歳の少女だ。その少女が、震えながらも、戦う事を決意しているというのに、冒険者である俺達が、尻込みしている訳にはいかない。
広場に集まっていた数多くの冒険者達の顔からは、次第に恐怖の色が過ぎ去っていく様子が見て取れた。
「……おっしゃぁ、やろうぜ、ミラちゃんっ!!魔物共なんか、俺達がぶっ飛ばしてやるぜぇっ!!」
冒険者の一人が腕を振り上げ、声高らかにそう声を上げる。それに触発されて、周りの冒険者達も、次第に腕を振り上げ、声を上げた。
どうやら、ミラの演説で冒険者としての誇りに火がついたようだ。
俺達は、何百、何千と、魔物達の血を流してきた。そして、それはこれからも変わらない。
生き延びる為に、魔物達と戦い続けていくのだ。
カバリア島の本当の支配者が誰であるか、そんな事はどうでも良い。ただ、俺達の帰りを待つ人達がいて、心配してくれている人達がいる。
その人達を悲しませない為には、やるしかない。
誰の瞳にも、燃え上がるような闘志が宿り、恐怖を振り払っていた。
その様子を台の上から眺めていたミラは、自分の気持ちが伝わったのだと、目尻に浮かんだ涙をそっと拭った。
「……協力を、感謝する。……では、皆の者。我々の指示に従って、役割分担を決めさせて貰う。対策本部を設置するので、身分証明書や冒険者証明書を持ち、三十分後に役場の会議室前へ並んで欲しい。……皆で、必ず生き残るのだっ!!」
ミラから再びクア村長へとマイクが渡り、クア村長は最後に俺達に言い聞かせるように、声を張り上げた。その言葉に俺達は大声で応え、その声は広場に木霊した。
……これからの事がどうなるかなんて、俺達には分からない。
けれど、戦いは、すぐそこまで迫っているのだと、誰もが感じていた。





魔物達の足音は、確実に俺達の側へと近付いてきていた……







続く……


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