タイトル通り、不定期更新のブログです。 気が向いたとき、更新すると思います。 内容としては、オンラインゲーム「トリックスター」「ラテール」などを中心とさせて頂いております。(時々日常のことなども書くかもです)

れあちーのきまぐれにっき

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パロネタSS企画第一弾?

  1. 2008/09/13(土) 02:04:43|
  2. とある伯爵家
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
|д・) ソォーッ…ようやくラテも転職したし、経験値UPイベも終わったしという事で、ずっと生殺し状態になっていた伯爵物語を完成させましたよっと(ぁ





もう一度、登場人物のおさらい(ぁ





伯爵家紹介




右から、うちのキャラのラフィオ君と、伯爵様なM氏、執事なU氏、メイドなM嬢でs(ぁ






もう一人のメイド(ぁ




そして、後一人の登場人物はうちのシーちゃんです。




今回はパロ企画なので、TS版の小説とはまた設定が異なります。



今回はみんなのイメージをぶち壊しにする為のものなので、めっちゃめちゃ違いまs(ぁ




こちらの方はほとんどオリジナル設定なので、TS版SSとは異なるものとしてお考え下さい。


また、こちらの作品は残酷表現が若干多めとなっておりますので、苦手な方はご注意を。






それでも良いよという方は、続きをどうぞ(`・ω・´)ノ














とある時代、とある場所での、そんな物語……




人里離れた古き森の中に、その洋館は佇んでいた。
建てられた当初は純白であったであろうその館の壁も、今ではくすんだ白い色となってしまっている。何十年、何百年という歳月が、雨となり風となり、その壁に染み込んでいるのだろう。
まるで人すら住んでいないかのようなその古い洋館の門前に、一台の馬車が停車した。
こんな人里離れた場所に何の用があるというのだろうか。
やがて、その馬車の扉が開き、中から一人の金色の髪を持つ少女が現れた。
彼女は降りてすぐに大きな門を見上げ、感嘆の溜息をついた。
「……うわぁ……大きいのだー……」
少女は澄んだその声で、心のままに感想を口にした。
彼女の名はシー・ブリーズ。今日からこの館で臨時のメイドとして働く事になった少女だ。
そんな彼女を連れてきた馬車の御者は、彼女の荷物を荷台の中から引っ張り出し、シーに手渡した。
「……しかし、お嬢ちゃん、本当にここの屋敷に入るのか?」
シーの鞄を手渡しながら、御者の壮年の男は心配するような表情でそう口にした。
それにシーは力強く頷き、
「うん、今日からここのメイドさんになるんだー」
と、無邪気な表情でえへへと笑った。
まるでひまわりのような明るい笑顔を浮かべるシーの姿に、男は苦虫を噛みつぶしたかのような表情となり、顔をしかめた。
「……悪い事はいわねぇ、今からでも他の場所を探した方がいい。だって、ここは―――」
男が最後の言葉を発しようとした瞬間に、ざわりと周りの木々が騒ぎ出し、不気味な鴉たちの鳴き声が響き渡った。
その所為で、男が言おうとした事がかき消され、言葉が聞き取れなかった。
何と言ったのか、聞き返そうとしたのだが、男は辺りに不穏な空気を感じたらしく、青ざめた顔で周りを見回しながら、帰り支度を始めてしまった。
「……じゃ、じゃあ、俺はここまでだ。まぁ、その、なんだ……頑張るんだよ、お嬢ちゃん」
男はそう言って、まるで逃げるように馬車へと戻り、来た道をすごい勢いで引き返していった。
馬の蹄の音があっという間に遠ざかっていくのを見送りながら、先程男が言おうとした事は何だったのだろうと考えた。が、まぁ、どうでもいいかと意識を切り替え、くるりと門の方へと身体を反転させた。
どんな人たちが住んでいるんだろうと、門から見える洋館を見上げながら、彼女はわくわくした気持ちで門に取り付けられている呼び鈴を鳴らしたのだった。






とある伯爵家の事情





が、数分が経ち、十分が経ち、数十分が過ぎても、門が開く気配がない。
何度も呼び鈴を鳴らしているのに、誰も来る気配を見せない洋館を見つめ、本当に人は住んでいるのだろうかと、疑いたくなってきた。
流石のシーも苛立ちを覚え、呼びつけておいてこの仕打ちはないのだと、門に手をかけた。
だがその瞬間、かしゃりと音を立てて、門が開いた。
「………………………」
どうやら、最初から鍵がかかっていなかったようだ……
しかし、屋敷の人に無断で入って怒られないだろうか。ふとそんな考えが過ぎ去ったが、あれだけ待ったのに、来ない人たちが悪いのだと、考えを改め、直接屋敷の方へと向かう事を決めた。
足下に置いていたバックを持ち上げ、彼女は遙か先に見える屋敷に向かって歩き始めた。
ぼうぼうと草が生い茂る庭を通り抜けながら、手入れが行き届いてないのかなぁっと、シーは辺りを見回しながら歩いた。
折角こんなに広い庭があるのに、勿体ないなとどうでもいい事を考えながら、森のようになってしまっている庭を抜けていく。
長い間手入れされていないような庭に、朽ちかけているオブジェがいくつも転がっている。
本当に、人は住んでいるのだろうかと、再度疑いたくなってきた。
だが、募集のチラシには確かにこことあったし、執事らしき人とも連絡を取ったので間違いはないはずなんだけど……
段々不安になってきたシーはスカートのポケットの中から募集のチラシを取り出し、チラシについている住所を確認した。
やはり、ここに間違いはないはずだ。
まぁ、間違っていたらその時はその時だ。
まずは屋敷に辿り着かなければと意識を切り替え、彼女は再び歩き出そうとした。
だが、その瞬間、がさりと近くの茂みがざわついた。
その音にシーはびくりと身体を震わせてそちらを見た。
これだけ野放しにされた庭の中だ。野犬か何かがいても、おかしくはない。
茂みのざわつきは段々と近づいてくる。
そして、何だろうと考えているうちに、それはいきなり草の中から飛び出してきた。
「――っ!?う、わ、わ、ど、どけーーーーっ!!」
「きゃぁっ!?」
まだ声変わりもしていないような少し高い少年の声が響いたかと思った瞬間には、時は既に遅かった。
ぼすんっと少年がシーに体当たりするかのようにぶつかり、お互いしりもちをつく事になった。
「……あいたたた……」
シーは倒れた瞬間にぶつけたおしりをさすりながら、目の前に突然現れた少年を見た。少年もまた、しりもちをついたのか、顔をしかめている。
少年の容姿を見たシーは、驚きのあまり、一瞬呼吸を忘れた。
真っ白な髪、雪のように白い肌。そして、赤い瞳のその少年。歳は、13、4歳程……といった外見だろうか。
自分よりも年下であろうその少年は、シーの姿をその瞳に捕らえると、何しに来たんだと、少し疑うような表情を浮かべた。
まるで異形のようなその外見に、一瞬だけ意識を攫われたシーだったが、自分が何しに来たのかを思いだし、事情を説明するため、手に持っていたチラシを見せようとしたのだが。
「ラーーーーーーフィーーーーーオーーーーーーーーー!!!!」
「げ、来やがったっ!!」
地の底から響くような重低音が響き、少年はげっと顔を青ざめさせ、立ち上がった。
その瞬間、少年が飛び出してきた草の茂みからメイド服に身を包んだ金髪の女性が、鬼のような形相で飛び出してきた。
その手に、赤いリボンの巻かれた可愛らしい箒を持って。
「またご主人様の本に悪戯して!!今日という今日は許しませんよっ!!!」
茂みから飛び出したその女性は、おもむろにその箒を振りかぶって、少年に向かって跳躍をした。
それを見上げた少年は、素早い身のこなしでその場から飛び退いた。残像すら残さないその動きに、シーは驚いて息を呑み込んだ。
女性の箒が地面に直撃したその瞬間、ぼこんっと音を立てて、地面が陥没した。
ずずんっと地面が揺れた感覚を味わい、目の前で繰り広げられる信じられない光景に、シーはただただ、呆然としている。
難を逃れた少年は、猿のような身のこなしで木の上に着地する。
舞い上がった噴煙がぱらぱらと、辺りに舞い落ちる。そんな中、この事態を引き起こした張本人の女性は何事もなかったかのように、木の上の少年を見上げた。
「ご主人様もかんかんですよ。覚悟なさい、ラフィオ」
「……わ、わかった、俺が悪かったから……おとなしくついてくからさ、これ以上暴れるなよ、まっきー」
陥没した地面を青ざめた顔で見つめ、少年はぐいっと顎でシーを指し示した。
それにようやく女性はシーの存在に気づいたのか、その青い瞳を大きく見開いて、あらあらと声を上げた。
鬼のような形相がすっと引っ込み、少年はふぅっと安堵の溜息をついた。
「ごめんなさいね、お恥ずかしい所をお見せしてしまいまして。どのようなご用件で?」
女性はふわりと優しい微笑みを浮かべ、地面に座り込んでいるシーに手をさしのべた。
それにシーは立ち上がり、服に付いた埃を払いながら、持ってきたメイド募集のチラシを差し出した。
「あら、貴女が今日から来て下さるメイドの方だったんですね。到着が遅いから心配していましたよ」
チラシを手に取った女性はシーの姿を見て、にっこりと微笑んだ。それにシーはあははと苦笑を浮かべた。
「それにしても、なんでこんな所に?門の所で待っていて下されば迎えを行かせたのに…」
「……あ……すみません、勝手に入って。門の所で待ってたんだけど、誰も来なくて。そしたら、門が開いてたから直接お屋敷の方に伺おうと思って……」
「あらあら、それはすみませんでした。……でも、おかしいですね。チャイムが壊れてしまったのかしら……」
門も鍵をかけているはずなのに、と首をかしげながらその女性はいまだ木の上にいる少年をちらりと見上げた。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はこのお屋敷で女中をさせて頂いている槙宮楓と申します。そして、あの子はラフィオ。これから宜しくお願いします。……えっと……」
「あ、シーです。シー・ブリーズ」
「まぁ、可愛らしいお名前ですね」
シーの自己紹介に槙宮と名乗った女性はにっこりと微笑んだ。先程の光景がまるで嘘のようにおしとやかな女性だ。
「……ラフィオ。シーさんの荷物を持ってあげなさい」
「えー」
「つべこべ言わない」
「……はいはい」
ラフィオと呼ばれた真っ白なその少年は、すっと木の上から音もなく地面に着地した。
しかし、自分よりも小さい子に荷物を持って貰うのはどうかと思ったシーだったが、槙宮の有無を言わさない雰囲気に圧倒され、ラフィオに荷物をお願いした。
ラフィオは荷物を受け取るとひょいっと、造作もなく肩に担いだ。
「さぁ、お屋敷の方へ行きましょう。こちらですよ。シーさん」
「あ、シーでいいです。槙宮さん」
「じゃあ、私も槙宮でいいですよ」
槙宮の言葉にシーは僅かに考えるような顔を浮かべ、
「じゃあ、まっきーさんで」
と、先程ラフィオが呼んでいた呼び方を思い出して、にっこりと微笑んだ。
それに槙宮は一瞬驚いたような表情を浮かべたけれど、くすりと微笑んで、
「行きましょうか、シーちゃん」
と、屋敷の方に向かって歩き出したのだった。







それから庭を15分程かけて通り抜け、ようやく屋敷に到達した。
遠くから見ても大きい屋敷だと思ったけれど、近くに来ると更に大きく感じられる。
それを呆然と見上げていると、後ろからラフィオに小突かれた。
「どうせ、あとでいっぱい見られるんだからさ、早く入りなよ」
「それもそうだね。ごめんね、荷物もたせちゃって」
「別に。まっきーに言われたし」
シーの言葉に、ふんっと少し冷たい反応を返しながら、ラフィオが荷物を持ったまま屋敷の中へ入っていく。それを追いかけながら、シーもまた屋敷の中に足を踏み入れた。
赤い絨毯が敷き詰められた広いエントランスホール。
部屋の中央には大きなシャンデリアが天上から吊されている。
部屋の至る所に、細かい細工の施されたオブジェや、絵画がいくつも配置されている。
手入れの行き届いていない庭からは想像できない程、中は隅々まで手入れが行き届いている。
庶民の自分には手が出せそうもないものがいっぱいだなぁっと物珍しそうにシーは辺りを見回した。その様子に、ラフィオが少しさめた目でシーを一瞥し、呆れたように溜息をつく。そのまま、僅かに肩をすくめながら、持っていたシーの荷物を部屋の片隅に置いた。
が、その瞬間、ラフィオは慌てたような顔で二階への階段を見上げ、げっと小さく声を上げた。
その様子に、シーはどうしたのかとラフィオの視線を辿り、二階に続く階段を見上げた。
「……戻ったか、槙宮」
澄んだ低い声。物静かな眼差しの男が、靴音を立てながら、階段の所に現れた。
襟首を正し、着崩す事なく上から下まできっちりとした正装のその男性。歩く姿にさえ、優雅さを感じられるその姿に、この人がこの屋敷の主なのだと、直感的に理解したシーは僅かに緊張した様子でその男性を見上げた。
「……槙宮、そちらのお嬢さんは?」
そんなシーの姿に気がついたのか、男はちらりとシーを一瞥し、槙宮に問いかける。それに槙宮はシーを紹介するように、ずいっとシーを前に出させた。
「メイド募集に応募して下さった方ですよ、ご主人様。さ、シーちゃん、ご挨拶を」
槙宮が簡潔に紹介してくれ、シーは慌てて頭を下げた。
「は、初めまして。シー・ブリーズと申します。今日からこちらで働かせて頂きます。元気くらいしか取り柄がありませんが、精一杯頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします!」
若干、緊張の所為かいつもより声が大きくなり、広いホールの中でその声はガンガンに反射して響いた。
元々地声が大きいのもあるが、このホールは音を反射しやすい性質を持っていたようだ。あんまりうるさいと嫌われてしまうかもしれない。顔を上げたシーはしまったと僅かに顔をしかめた。
シーの自己紹介を聞いて、一瞬唖然とした男だったが、やがて口元を手で隠しながら、くすりと笑った。
「確かに、元気な方のようだ。その調子で、頑張ってくれたまえ。……私はこの屋敷の主、ミュウラー・クレヴァンスだ。仕事の事は槙宮に教わってくれ。こちらこそ、宜しく頼む」
「はい!」
僅かに表情を軟らかくして、ミュウラーと名乗った男はシーを激励してくれた。その様子に、心の中で安堵しながら、シーは力強く返事をした。
「…………さて…………ラフィオ、何処へ行く?」
シーとの会話が一段落したのを見計らい、こそこそと姿をくらまそうとしていたラフィオに気づいたミュウラーは、声を低くして冷たい視線を投げつけた。
それに、ぎくりとしたラフィオは、青ざめた顔でミュウラーを見上げた。
「…………まさか、あれだけの事をしたくせに、お咎めなし……とは、考えていないよな?覚悟は出来ているな?ラフィオ」
「…………っ……」
威圧的な瞳で睨まれ、ラフィオはじりじりと後ずさる。直接その視線を受けている訳ではないのに、すごい威圧感を感じ、シーも冷や汗が流れるのを感じた。
そんな視線を直接受けているラフィオはどれ程の恐怖を味わっているのだろう。この人は怒らせてはいけない人だと、直感的に理解し、気をつけようと心の底から思った。
「はい。捕まえた」
「――っ!?」
じりじりと後ずさり、逃げようとしていたラフィオの背後に長身の青年が歩み寄り、がっしりと彼の小さな肩を両手で捕まえた。それに心底驚いたラフィオはぎょっとした顔で背後の青年を見上げた。
金色の髪に、柔和な顔立ち。ひょろりと背の高いその青年は、にっこりと微笑みながらラフィオを見下ろした。
その青年の姿に見覚えがあったシーは、あっと小さく声を上げた。シーの面接をしてくれた執事らしき青年だったのだ。
それに気がついた青年は、その青い瞳でシーを見て、ひらひらと手を振った。
「お、シーちゃんだ。採用おめでとう。僕はエメラルダ・梅丸。梅って呼んでね」
今日からよろしくと、梅丸と名乗った青年はにっこりと微笑んだ。
「梅。その馬鹿を連れてこい。今日こそきっちり教育し直してやる」
「はーい」
ミュウラーの指示に従い、梅丸は暴れるラフィオをひょいっと無造作に肩に担ぎ上げる。
それにラフィオはじたばたと暴れたが、体格が違いすぎる。
「馬鹿、離せ、離せよっ!!梅のくせにっ!!馬鹿っ!!」
それに心底慌てた様子で、ぽかぽかと梅丸を殴りながらラフィオが騒ぐが、もう逃げる事は出来なかった。
「じゃあ、まっきーさん、あとよろしく。シーちゃん、頑張ってね」
ひらひらと手を振りながら、梅丸はにこやかな様子で去っていく。それを見送りながら、何ともすごい光景だなっと、シーは呆然と思った。
「まったく、お仕置きされるのはわかってるはずなのに、懲りない子ね。あの子も」
「……ら、ラフィオ君、何したんですか?」
「……ご主人様の本に落書きしたの。全ページにね」
全ページ……その言葉を聞いて、シーは失笑した。それは確かに怒られるなと納得し、いまだにぎゃーぎゃー騒いでいる彼を見送った。
「さ、お部屋に案内しますね。制服も置いてあるから、着替えたら仕事の説明を始めますよ」
「あ、はい。よろしくお願いします、まっきーさん」
槙宮は悲鳴を上げて連れて行かれるラフィオを無視して、シーに仕事を教えるため、部屋の端に置いていかれたシーの荷物を持って歩き始めた。
それにシーも慌てて槙宮の後に続いた。
こうして、この屋敷での生活がここから始まったのだった。








「ここがご主人様の書斎。ここは応接間。ここは……」
前を歩く槙宮の後に続いて、メイド服に身を包んだシーは多すぎる部屋の説明を受けていた。既に20を越える部屋を案内されたが、到底、一度に覚えきれるものではない。
段々と混乱してきたシーは、ぐるぐるする頭を抱えたまま、槙宮のあとに続いて歩いていた。
「……シーちゃん、大丈夫?」
と、そんな様子のシーに気がついたのか、槙宮が唐突にシーを振り返り、小首をかしげて彼女を見つめた。それに、シーは慌てて頷き、
「だ、大丈夫です……多分……」
と、力無い返事を返した。そんなシーの様子に、くすりと槙宮は笑い、
「やっぱり、一度には覚えられないですよね。私も最初の頃、苦労したもの」
と、しょんぼりとした表情になったシーに、ううんと首を振りながらフォローするように槙宮は微笑んだ。
「……すみません、物覚えが悪くて……」
「あとで地図を作ってあげますね。覚えるのには慣れも必要だし、焦らなくて大丈夫だから」
「はいー」
えぐっと泣きそうな表情を浮かべるシーの姿に、くすくすと笑って槙宮は宥めるように、シーの頭を撫でた。
「……それにしても、シーちゃん。聞こうと思っていたんだけど、どうしてこのメイド募集に応募してくれたんですか?……このお屋敷、色々変な噂が広まってるでしょ?」
ふと思い出したのか、槙宮はシーを見下ろしながらそう問いかけてくる。それにシーは一度考えるように小首をかしげた。
「まぁ、確かに、ここのお屋敷については色々言われてますけどねぇ。夜な夜な妙な声がするとか、何年経っても、住人の姿が変わらないとか……悪魔が住んでる屋敷だとか、そんなひどい中傷もありますよね…」
シーが一つ一つ、噂を思い出しながら告げると、槙宮は少し寂しそうな表情になった。それに、失言だったかとシーは心配げな表情を浮かべたけれど、どうやら、それについて寂しそうな顔をした訳ではないらしい。
「……ずっとメイド募集を出していたけど、応募して下さった方は本当に数名で、ここに来たけど、一日も保たない方ばっかりだったんです。だから、シーちゃんはどう思っているのかなっと……」
僅かに俯きながら、槙宮がそう問いかけると、シーはうーんと頭をひねり、
「……まぁ、まだ来たばっかで何とも言えませんが、私はここ、結構好きですよ。皆さん、面白そうな人ですし……そんな人たちがなんで、謂われのない中傷を受けているのか謎なんですけど」
と、心底分からないというように、きょとんとした顔を浮かべた。
それに槙宮は僅かに苦笑した表情を浮かべ、
「まぁ、あながち、間違ってはいないんですけどね、その中傷……」
と、ぼそりとした声で呟いた。それにシーは更にきょとんとして、槙宮を見たが、それについての説明を貰う事は出来なかった。
「……私、周りから変わってるって言われるんですよ」
「変わってる……とは、どんな風に?」
何気なく言い出したシーの様子に、槙宮は僅かに小首をかしげ、問い返す。
それにシーは、手を後ろで組んで、もじもじしたように俯きながら、話し始めた。
「んー、そうですね。……みんなが怖がるようなもの、怖くないし、迷信とか噂を信じたりしないです……だって、ちゃんとよく見れば、それがどんなものかとか、わかるじゃないですか。だけど、みんな噂だけを信じてちゃんと見ようとしなかったりするし。人の事だって、外見だけで判断するし。なんでちゃんとその人の話を聞いたりしないのかなって、いつも疑問なんですよ」
「ふむふむ」
「だから、私はちゃんと自分の目で見て、判断したいんですよ。……だけど、他の人に言わせると、それは変わってるって……それで結構、周りから浮いてたんですよね、私」
俯きながら、子供の頃の記憶を思い出しているのか、僅かに顔をしかめながら、シーは告げる。それに槙宮はふむっと、小さく頷きながら、相づちを打った。
確かに貧富の差が激しいこのご時世、周りが右を向いたら右を見なくてはいけないと言うような、暗黙の了解がある。貧困に耐える為には近隣住民との協力が必要不可欠。横への繋がりが強固なものとなるのは当然の事なのだ。
そんな中、考えの違う者が混ざると、それは邪魔な存在となってしまう。
他者と違う考えの者は必然的に浮いてしまうのだろう。どうやらシーも、そんな一人だったらしい。
「……まぁ、私達の立場から考えると、その考え方はありがたい限りなんですけど。周りにしてみると、やっぱり浮いてしまいますよね。……でも、そんな貴女だからこそ、ご主人様は採用したのかもしれませんね」
自分の考え方を認めてくれる槙宮を見つめ、シーはえへへっと笑った。
この考え方を受け入れてくれる人は少ないだけに、理解してくれる人がいるのは嬉しい事だ。この様子なら、このままうまくやっていけるかもしれないと、これからの事を考え、シーは少し嬉しくなった。
「……あら、いけない。立ち話が過ぎてしまいましたね。お仕事の説明を再開しますね」
「はーい」
はっと、我に返ったように槙宮が仕事の説明を再開する。再び歩き出したその後に続きながら、シーはふと浮かんだ疑問をぶつけてみた。
「まっきーさん、ずっと一人でこのお屋敷のメイドさんしてたんですか?」
「ええ、そうですよ」
「うわぁ、すごいですね。こんな広いお屋敷を一人でお掃除してたんですか?」
心底驚いた表情を浮かべるシーの様子に槙宮はくすりと笑う。
「そうですよ。お掃除は好きだからいいんですが……私、定期的に暇を貰わなくちゃいけなくて、その時、ここのお屋敷の女中が一人もいなくなってしまうんです。だから、戻ってくるとすごい事になってて……」
昔の悲惨な状況を思い出したのか、槙宮が乾いた笑いを浮かべる。その様子に、どんな状態になっているか、シーは頭の中でシミュレートしてみた。
ミュウラーはきっと掃除はしない。ラフィオも多分無理……だと思う。梅丸は掃除するかもしれないけど、一人だけでは散らかす二人の速度に追いつけないのではないだろうか。
少し考えただけで容易に想像が出来、シーはあははと乾いた笑いを浮かべてしまった。
「だから、ずっと女中を募集していたんです」
「な、なるほど……そういう事だったんですか」
あんまりなその理由に、シーは思わず失笑する。槙宮はすっと後ろを振り返ると、おもむろにシーの肩をがしっと掴み、
「だからお願い、シーちゃん。貴女まで辞めるなんて言わないで下さいね」
と、真剣な瞳でシーを見つめ、せっぱ詰まったような声でそう言った。それにシーは苦笑するしかなかった。
いまはまだ仕事を始めたばかりで右も左もわからないので、辞める以前の問題だ。
これから先、どうなるかわからないけれど、今の段階では辞めるつもりは毛頭ないのだが。
「あ、そうだ、まっきーさん。ここって、お庭を整備する人はいないんですか?」
「え?庭師ですか?」
ふっと、何かを思い出したのか、シーはおもむろに槙宮に問いかける。それに槙宮はきょとんとした表情で、シーを見つめた。
「庭師……は、残念ながらいないですね。梅ちゃんが一括してその辺の事もやっているんですが、何かと仕事量が多くて、そちらまで手が回らない状況で……」
恥ずかしい限りだと、少し俯きがちに現状を告白する槙宮の様子に、シーはふむふむと頷いた。そして何を思いついたのか、嬉しそうにえへっと微笑み、挙手するようにぴしっと手を挙げた。
「なら、手が空いた時でいいんですけど、お庭の整備してもいいですか?折角あんなに広いお庭があるのに、勿体ないですもん。私、近所に住んでた庭師のおじーさんに子供の頃からガーデニングのノウハウを聞いて育ったんです。だから庭の事に関しては、ちょっとうるさいんですよー」
えへへーっと少し誇らしげに笑うシーの様子に、まぁと槙宮は少し驚いた瞳を向けた。
だが、やがてその顔を綻ばせ、穏やかな表情で笑った。
「それは助かります。じゃあ、お願いしようかな」
「はーい、このシーちゃんにお任せあれですー」
えっへんと僅かに胸を張るシーの様子にくすくす笑いながら、この様子ならこのまま頑張ってくれるかもしれないと確信して、槙宮は安堵を覚えた。
まぁ最も、彼女が自分たちの正体を知ってしまった時、同じようにここで働いてくれるかはわからないけれど。
今の段階では好印象を持ってくれている様子のシーに、少し期待を抱いてしまう自分に内心で苦笑しながら、槙宮は再び仕事の説明に戻ったのだった。








夕闇が辺りに立ちこめ、夜の帳が下りる頃、館の調理場は戦場と化していた。
「うわぁ、すごいごちそうですー」
次々と手際よく作られていく料理達。そのあまりの多さに、シーは目を見開いて感嘆の声を上げた。
それに真っ白なエプロンを纏った梅丸が、休むことなく調理を続けながら、くすりと笑った。
「そうだよ。今日はシーちゃんが来てくれた日だから、ごちそうなんだよ」
「え、私の為なんですか!?」
梅丸の言葉にびっくりして、きょとんとした顔で聞き返すシーの様子に、出来上がった料理をティーカートに乗せていた槙宮もまたくすくすと笑い、
「ご主人様の計らいですよ、シーちゃん」
と、こっそりとシーに耳打ちした。シーはその言葉に更にびっくりして槙宮を見ると、槙宮は優しく微笑んでこくりと頷いた。
そんな会話を繰り広げるのを傍目に見ていたラフィオが出来上がったばかりのケーキに目をつけたらしく、こっそりと手を伸ばした。つまみ食いでもしようというのか。
だが、どうやら彼はつまみ食いの常習犯らしく、それを見逃す槙宮ではなかった。
「めっ!」
「いたっ」
目にも止まらぬ早さでびしっとその手をはたき、槙宮がラフィオを睨む。手をはたかれたラフィオは痛かったのか、僅かに目尻に涙を浮かべながら、不満そうに槙宮を見上げた。
「こら、ラフィオ。つまみ食いはいけませんと、何度言わせる気ですか」
「いいじゃん、ケチ」
「ケチじゃありません。夕飯までお待ちなさい」
じろりと威圧する瞳で槙宮がいまだ不満げなラフィオに注意する。が、どうもあまり効果はないらしく、ぶーぶーと文句を言っている。その様子に、何だか微笑ましい図だなとシーはくすりと笑った。
「さ、早く食堂に運んじゃおう。料理はまだまだ出来上がるからね」
シチューを煮込んでいる鍋をかき回しながら、梅丸が言う。一度にいくつもの鍋を駆使して、あっという間に何品もの料理が出来上がっていく。このままではこの調理場に入り切らなくなってしまうだろう。
てきぱきと料理をティーカートに乗せている槙宮を手伝い、シーもまた慌ただしく調理場を歩き回った。
「……………………」
と、何を思ったのか、今まで料理を狙っていたラフィオが急に表情を引き締め、暗闇に染まる窓の外を睨んだ。その様子の変化にシーはきょとんと首をかしげて、ラフィオを見た。
「どうしたの?ラフィオ君」
「…………いや、なんでもねー」
小首をかしげて問いかけるシーに、ラフィオはそれだけを応えると、なんでもないと言うように首を振った。しかし、瞳は窓の外へとむいたままのその様子に、なんだったのだろうと、僅かに疑問を持ちながら、シーは料理を運ぶ為、ティーカートを転がして食堂へと向かった。
がらんとした食堂に辿り着いたシーと槙宮は純白のテーブルクロスのしわを伸ばし、手際よく料理と食器を並べていく。
優に十人は座れそうな長いテーブルに、次々と華やかな料理達が置かれていく。
槙宮の指示に従い、銀の食器を並べながら、食堂の壁に掛けられている絵画や装飾品の数々を漠然と眺め、やっぱりすごいなぁっと心の中で感嘆した。
天上には大きなシャンデリア。テーブルのすぐそばの壁には大きな暖炉もある。
塵一つ落ちていない床は、ぴかぴかに磨き上げられている。
これを掃除するのが、自分の役目なんだなっと、今更ながらにそんな事を考えた。
「そういえば、シーちゃん、ご家族は?」
料理を並べながら、ふと槙宮がシーに問いかける。それにシーはきょとんとして槙宮を見た。
「父と、兄が一人。母は私が幼い頃に亡くなったと聞いています」
「まぁ」
「父は漁師だったんですが、私が15の時に体を壊しちゃいましてね。それ以降は私と兄で家計を切り盛りしてるんです」
シーは僅かに苦笑を浮かべながら、そう語る。その言葉に槙宮はあらあらと相づちを打ちながら、悪い事を聞いてしまったかと心配げな表情を浮かべた。それにシーは気にしていないと笑いかけながら、料理を並べるのを手伝った。
「お兄さんは、どんなお仕事を?」
「兄ですか?……んー、兄も出稼ぎに出てしまっているんで、詳しい事は……」
最後に会ったのは一年程前だと、記憶を思い返しながら、シーは苦笑する。
「……と、言う事は、今お父様はお一人でご自宅に?」
「はい。働けない身体ですが、日常生活に支障はないんですよ」
だから大丈夫ですと笑うシーの様子に、槙宮は僅かに苦笑した。
「じゃあ、お父様、寂しくなっちゃいますね」
「あ、大丈夫ですよ、うちの父はいつも剽軽なもんですし。漁に出てた頃なんて、一ヶ月、二ヶ月、帰ってこないなんて当たり前でしたから」
あははと笑うシーの様子に、槙宮もくすりと笑った。
「でも、時々顔は見せに行ってあげて下さいね。ご主人様に言えば、それくらいの暇は貰えますから」
「はーい」
槙宮の言葉に、軽い返事を返しながら、シーは笑った。
「さて、また新しい料理が出来てると思うから、調理場に戻りましょう。早く並べてしまって、ご主人様をお呼びしますよ」
せっかくの料理が冷めてしまいますからねと、槙宮は笑いながら、空になったティーカートを転がして、調理場へと戻る為、歩き始めた。その後に続いて、シーもまた少し早足で歩き出したのだった。








「あれ?ラフィオ君は?」
調理場に戻って最初に感じた違和感に、シーはきょとんとして首をかしげた。
先程までここにいたはずのラフィオの姿がなくなっているのだ。
「なんか、さっきふらりと出て行ったよー」
調理を終え、最後の飾り付けをしている梅丸は、何事もなかったかのように応える。それに槙宮はあらあらと頬に手を添えた。
「どうしたんでしょうね。食い意地だけは張ってる子なのに」
珍しい……と、小さく付け加えながら、出来上がった料理を再びティーカートに乗せていく。それを見たシーもまた、手伝おうと歩み寄ったのだが。
「シーちゃん、後これだけだから、私がやりますね。貴女は、ご主人様を呼んできて貰えます?この時間、ご主人様は書斎の方にいらっしゃいますから」
「はーい、わかりましたー」
槙宮の言葉に、シーは元気よく返事をした。そのまま、料理を移している槙宮の姿を横目に調理場を後にして、昼間説明された情報を頼りに薄暗くなった通路を歩き始める。
よく見ると、通路の所々にも絵画が掛けられている。
この屋敷全体で一体いくつの絵画や装飾品がある事やら。お金持ちの考える事ってわかんないなぁっと、呆然と考えながら、書斎へと続く通路を歩いていた。
だが、その瞬間。
「―――きゃぁっ!!」
ガシャンッとけたたましい音を立てて、何かが近くで割れた。それが窓ガラスである事に、数秒の間、シーは気づけなかった。
ガラスの破片がぱらぱらと床に落ちて、硬質な音が辺りに響いた。
ばさりと音を立てて、真っ黒な何かが割れた窓から飛び込んでくる。シーはあまりの出来事に呆然と立ち尽くしてしまった。
あれ、ここ、二階じゃなかったっけなんて、どうでもいい事が頭を過ぎ去って、消えていく。
「あー?めっずらし、人間だぜ」
じゃりっと、床に飛び散ったガラスの破片を踏みしめながら、外からいきなり現れたそれは呆然と立っているシーに気がつくと、低くしわがれた声でそんな事を口にした。
僅かにとがった耳。漆黒の髪に見え隠れする血のように赤い瞳を持つ長身の男がシーを見下ろし、僅かに舌なめずりするように唇を舐めた。
その男の背中にはコウモリのような漆黒の翼が生えており、それが人間以外の生き物である事がはっきりと理解った。
―――悪魔……目の前の存在の正体に気がついて、シーは引きるような恐怖を感じ、声の限りに悲鳴を上げた。
その甲高い悲鳴は、屋敷の中に木霊して消えた。
さしもの彼女も、人以外の生き物への免疫はなかったようで、溢れる恐怖心を押さえる事が出来なかった。
「なんだよ、悲鳴あげる事ねーじゃねぇか」
羽男は悲鳴を上げたシーの様子に、くすくすと嫌らしい笑みを浮かべ、シーの腕を捕まえると、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
「ここの連中を殺った後に、お前は俺らが喰ってやるからさぁ。その時またイイ声で泣けよ、なぁ」
耳元に唇を寄せ、囁くように羽男が笑う。その言葉に、シーは恐怖を感じ、羽男を振り払おうと暴れたけれど、掴まれた腕は振り解けなかった。
「…………そこまでにして貰おうか」
「――っ!?」
こつこつと靴音を響かせて、通路を歩いてくる影が一つ。シーと羽男は息を呑み込み、その影を振り返った。
金色の瞳で羽男を冷たく見据え、ミュウラーが平然と歩いてくる。その様子に、羽男はにやりと笑い、ミュウラーを見た。
「伯爵様自らご登場とはありがたい限りだぜ。いつもあんたらの所為で、こっちの世界で思うように動けねぇからなぁ。目障りなんで死んでもらいに来たぜぇ、番犬さんよぉ」
羽男は低くしわがれた声で、声を張り上げて下卑た笑いを浮かべる。その様子に、ミュウラーは呆れたような表情で溜息をついた。
「……全く、これだから低級悪魔は馬鹿が多い。こんな程度の低い輩を我が屋敷に入れるとは……あの小猿は何をやってるんだ」
踏みにじられた絨毯と散乱したガラスの破片。それを一瞥したミュウラーは不快げな瞳を羽男へと向ける。その瞳はまるで、羽男を嘲笑しているようで、羽男は神経質に瞼をぴくぴくと震わせた。
「……馬鹿とはご挨拶だな、伯爵様よぉ。小猿って、もしかしてさっきのガキの事かぁ?なら残念だったなぁ、伯爵様。あのガキなら今頃俺の仲間が始末しちまってる頃さ」
不機嫌そうに一度だけ顔をしかめた羽男だったが、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべると勝ち誇ったような表情でそう言った。
その言葉にミュウラーよりも先にシーの方が驚愕して、羽男を見上げた。先程いなかったのは、侵入者を見つけた為だったのかと、今更納得した。
「ら、ラフィオ君に何したのっ!!」
シーが声を張り上げ、羽男を睨む。それに羽男は気分を良くしたのか、にやりと嫌な笑いを浮かべたまま、
「……さぁてねぇ。ま、五体満足じゃいられないだろうなぁ。俺の仲間は残忍な奴が多いから」
と、喉でくつくつと笑いながら、羽男はシーを睨め回すように見下ろした。
それに、シーは嫌なものを感じ、掴まれたままの腕を振り解こうともがいた。が、しっかりと掴まれている為にやはり逃げ出せない。
と、ばたばたと廊下を駆けてくる足音が二つ。騒々しくそれはまっすぐにこちらへと向かってきていた。
どうやら、シーの悲鳴に気がついて、厨房から槙宮と梅丸が駆けつけてきたようだ。
「シーちゃんっ!!」
羽男に腕を掴まれているシーの姿に気がついた槙宮は、咄嗟に声を上げた。
そしてそのまま手に持っていた箒を握りしめ、羽男に向かって床を蹴りつけようとしたのだが、それに気がついた羽男は、ぐいっとシーの向きをミュウラー達がいる方へと変えさせると、その細い喉元にぎらりと鋭い爪を押しつけた。
勢い余ったのか、ぷつりと切っ先が刺さり、僅かに血が滲んだ。それにひりっとした痛みを感じたのか、シーは顔をしかめた。
羽男に飛びかかろうとしていた槙宮は、それを目の当たりにして、ぎくりとして足を踏み止めた。このまま突っ込めば、羽男は容赦なくシーの喉元を切り裂くだろう。
ぎりりっと歯を食いしばり、悔しそうな表情で羽男を睨み付けると、羽男はにやりと嫌な笑いを浮かべた。
「……おっと、動かないで貰おうか。まぁ、この子がどうなってもいいんなら、俺は別にかまわないけどなぁ」
「………ぐ……この、卑怯者っ!!」
槙宮は箒を持つ手を震わせて、悔しげに舌打ちする。その様子に、ミュウラーは彼女を制すように、すっと槙宮の前に手を差し出した。
それに槙宮がミュウラーへと視線を向けると、ミュウラーは僅かに首を振って見せた。
槙宮と同じく梅丸もまた、手が出せない事に憤りを感じているのか、僅かに顔をしかめて、羽男を睨んでいる。
「ひゃははははははは。全く、揃いも揃って、馬鹿な奴らだなぁ、おい」
そんな彼らの様子を、満足そうに見ていた羽男は、調子っぱずれた声で馬鹿笑いを浮かべる。それにミュウラーは冷めた眼で羽男を一瞥した。
「……一つ忠告してやろう」
「んぁ?」
「横に気をつけろよ」
「あ?」
ミュウラーの唐突なその言葉に、羽男は何事かと間抜けな声を上げて、自分が割った窓の方へと視線を投げた。あまりにも突拍子もない言動に油断したのか、シーに向けた爪が僅かに離れていた。
その一瞬の隙に、シーは咄嗟に羽男の腕を振り払って、ミュウラー達の元へと駆け出そうとした。
隙をつかれた羽男は、慌ててシーを捕まえようとしたのだが、その瞬間、割れた窓の外から、白い影が凄まじいスピードで飛び込んできた。
「どりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あぁっ?」
奇声を発し、飛び込んできたその影は、シーを捕まえようとしていた羽男に向かって跳び蹴りをかました。横からの攻撃に咄嗟に反応出来なかった羽男は僅かに悲鳴を上げながら、無様に吹っ飛ばされ、壁に激突する。羽男に激突された壁があまりの衝撃にびりびりと振動した。
窓から飛び込んできた白い影は、羽男を蹴り飛ばすと軽やかに着地し、羽男を一瞥した。
「こんな程度の低い者を屋敷に入れるとは、どういうつもりだ?ラフィオ」
「うるせー。他はとっ捕まえてきたからいいだろ」
ぱんぱんと、埃を払うように両手をはたきながら、ラフィオがミュウラーに口答えする。それにミュウラーはずれた眼鏡を指で押し戻しながら、僅かに眼を細め、全く……と呟いた。
「ラフィオ君、良かった。無事だったんだね!!」
突如窓から飛び込んできたラフィオの姿に、シーは心底心配してた様子で彼の小さな身体を抱き締めた。
それにラフィオはぎょっとした顔でシーを見上げた。
「ちょ、何すんだよ、は、離せよっ!!」
「あ、ごめん」
あまりこういう事に免疫がないのか、ラフィオは慌てた様子で、シーの腕の中で暴れる。
ラフィオの無事な姿に安心して、咄嗟に抱きついてしまったシーは、苦笑を浮かべ、暴れるラフィオを離した。
シーが離れた事で僅かに安堵したのか、ラフィオはふうっと小さく溜息をついた。そんな彼の様子を遠巻きに見ている槙宮達が、あらあらあらと、ニヤニヤしながら狼狽する彼を眺めている。それに気がついたラフィオは嫌そうな目で彼らを一瞥した。
「でもよかったよ。無事で……」
「当たり前だ。あんな程度の連中、どうって事……」
ラフィオが言葉を言いかけた瞬間、何かを察知したのか、咄嗟にシーの身体を押しのけた。いきなり突き飛ばされたシーは、あまりの事に受け身もとれず、床にしりもちをつく事になった。
「……いたた……何するの、ラフィオく……」
どさっと床に倒れ込んだシーは打ったお尻をさすりながら、ラフィオへと視線を向け、言葉を詰まらせた。
「――ラフィオっ!!」
槙宮が声を張り上げて、彼の名を叫んでいる。それを何処か遠い所のように感じながら、シーは目の前に広がった光景に釘付けになり、硬直した。
「……っ……油断……した……っ」
ごぼりっと、喉元からせり上がってくる血を吐き出しながら、ラフィオが唸る。彼の胸元から生えた銀色のそれが赤黒い血にまみれて、怪しい光を反射した。
「……たく、五人もいて、こんなガキ一人仕留められないとは、情けない奴らだぜ」
ラフィオの背後に立っていた羽男は、彼の背中から心臓めがけて突き立てた両刃の剣を握りしめながら、憎々しそうに呟いた。
そして、そのまま、無造作に剣を引き抜くと、貫かれた傷口からぶわっと鮮血が溢れ出した。
どくどくと血を流しながら、ラフィオの細い身体が床に倒れ込む。それにシーは悲鳴を上げて、半狂乱になりながら、彼に這い寄った。
「ラフィオ君っ、ラフィオ君っ!!」
シーは涙を浮かべ、倒れた彼の身体を抱き上げ、狂ったように名を呼び続ける。その様子に羽男はくつくつと笑った。
「まずは一人だぁ。次は誰だ?誰が死にたい?」
赤黒く光る剣を持って、羽男はぺろりと顔についた返り血を舐めとる。その姿に、槙宮と梅丸がミュウラーを守るように、彼の前に立ちはだかった。
その様子に、忠義深いねぇっと嘲笑するように羽男が笑った。
「……槙宮、梅。大丈夫だ。下がれ」
ミュウラーは自分の前に立った二人に告げ、彼らを制するように手を差し出した。
それに槙宮達は一度顔を見合わせたが、主人の意向を無視出来ず、僅かに身を引いた。
ミュウラーは道を空けた二人の横をすり抜け、こつこつと足音を響かせ、歩き出す。
「なんだ?次はあんたか?伯爵様よぉ」
羽男は無造作に近づいてくるミュウラーの様子に僅かに警戒しながら、にやにやと嘲笑めいた表情を浮かべる。それをさらりと無視して、ミュウラーは倒れたラフィオを抱き締めてすすり泣いているシーの元に歩み寄った。
「……全く、こんなに絨毯を汚して……」
赤黒い血が絨毯に染み込んでいるのを見て、ミュウラーは僅かに顔をしかめ、ぼそりと呟いた。その言葉にシーは驚き、ぎょっとした顔でミュウラーを見上げた。
こんな小さな子供が殺されたのに、何も感じないというのだろうかと、信じられないというような表情をシーは浮かべた。
何の感情も読みとる事の出来ないミュウラーの金色の瞳が、眼鏡の奥からラフィオを見下ろしている。
「……いつまで寝ているつもりだ?ラフィオ」
ミュウラーは冷ややかな声で、倒れているラフィオに言葉を投げつける。
その言葉に、シーも羽男も、何を言っているんだというような表情を向けた。
ラフィオが受けた傷は明らかに致命傷で、立ち上がる事など出来るものではない。
「なんだ?頭でもおかしくなったか?伯爵様よぉ」
羽男がミュウラーを馬鹿にするように嘲笑するが、ミュウラーは一瞥する事なく羽男を無視した。どうやら、徹底的に存在を無視するつもりらしい。それに羽男は神経質に瞼をぴくぴくと震わせた。
「……全く。早く起きろ、馬鹿者が。それでも闇の眷属か」
ミュウラーが一喝するように僅かに目を見開き、ラフィオを睨んだ。その瞬間、瞼を閉じていたラフィオがカッとその赤い瞳を見開いた。
血のように真っ赤な瞳だと、シーは今更ながらに思った。
剣で貫かれた胸の傷からはいつの間にか血が止まっていた。そればかりか、ふさがるはずのないそれが、跡形もなく消え去っている。
その姿にシーはぎょっとして、抱き締めていた彼の身体を離した。
「……よっと」
ラフィオは何事もなかったように立ち上がり、ぐいっと口元にこびりついた血を拭った。
「あ……あぁ?てめ、死んだはずじゃ……」
なんの造作もなく立ち上がったラフィオの姿に、羽男は恐れおののき、ぎょっとした顔でラフィオを凝視した。それにラフィオはべーっと羽男に向かって舌を出し、
「俺を殺せる奴なんて、ここにいるこの陰険な伯爵サマしかいねーよ」
と、隣にいるミュウラーを指さしながら、にやりと笑った。
「……人を指さすな」
「はいはい」
「はいは一回で十分だ」
「はーいっ」
そんな不毛なやり取りをする二人を唖然とした顔で見ていた羽男だったが、はっと我に返り、剣を握りしめた。
「ち、まさかこんなガキが“生ける死人 ”だったとはな……油断したぜ」
羽男はラフィオの正体を悟り、僅かに顔をしかめ、舌打ちした。
“生ける死人”というその単語を聞いたシーもまた、ラフィオの正体に気がつき、息を呑み込んだ。
“生ける死人“とは、その名が指し示す通り死んだはずの人間が、何らかの事象により活動を続ける事をいう。俗に言うゾンビとも言えるだろう。
だが、ゾンビと違う所は肉体が腐っていないという所だ。
詳しい事はシーにはわからないが、彼もまた、闇の眷属なのだと、目の前の少年を見つめ、衝撃を受けた。
羽男は顔をしかめ、現状を分析するように僅かに目線を動かして辺りを見回した。今は自分を守るべき盾はない。ラフィオが戻った事で、四対一の構図が出来上がってしまった事に舌打ちし、どうするかと思考を巡らせたが、良い案を思いつく間など彼には与えられていなかった。
「殺れ。闇の眷属の力を見せてやれ」
     イエス・マイロード
「………御意、御主人様」
ミュウラーの瞳が僅かに金色に輝く。その瞳を受けたラフィオは、すっと目を閉じ、両手を前に差し出した。
その瞬間、ラフィオの身体から水が流れるように緩やかな魔力の波が溢れ出し、彼の足下に赤く輝く魔法陣が浮かび上がった。そのまま彼が何事か呟くと、空間の狭間から二丁の拳銃がどこからともなく召喚された。
それを手に取ったラフィオは、すっと目を見開き、羽男を見据えた。役目を終えた魔法陣は光の粒子となり、四散して消えた。
先程まで勝ち気に溢れていた彼の瞳からは想像がつかない程、冷えた輝きを放つその瞳。まるで傀儡と化したかのように、無感情な表情でラフィオは羽男を一瞥した。
その姿にぞっとしたものを感じたのか、羽男は咄嗟に漆黒の翼を羽ばたかせると、凄まじいスピードで宙を駆け、いまだ床に座ったままだったシーの腕を掴むと、そのまま窓に突っ込んだ。どうやら、このまま戦う事を不利と考えたのだろう。
ガシャンッと音を立てて、再び窓ガラスが割れて四散する。
「シーちゃんっ!!」
「追えっ!絶対に逃がすなっ!!」
シーが攫われた事に気がついた槙宮は慌てて叫ぶ。命令を下されたラフィオは、直ぐさま窓に駆け寄り、縁に足をかけると、何の躊躇もなく外へと飛び出していった。
白い影が残像も残さず、消えていく。
「ご主人様、私も行ってきます」
「ああ、頼む」
槙宮も直ぐさま箒を握りしめると、窓から飛び出した。
空中で箒にまたがると、ふわりと宙に浮いた。彼女自身は魔力を扱う事は出来ないが、ミュウラーが開発したこの箒は、魔力を蓄積する事によって箒に密接しているものの重力を制御する仕組みを持っている。
魔力がみなぎったその箒を握りしめると加速するように空気の壁を突き破った。
逃亡した羽男は何処かと、僅かにスピードを緩めながら、槙宮は辺りを見回す。
――見つけた。
槙宮は逃亡する羽男を見つけ、そちらに向かって急降下した。
ダン、ダン、ダンッと銃声が鳴り響く。屋根伝いに追いかけてくるラフィオを煩わしく思いながら、羽男は飛んでくる銃弾を避ける。
腕の中にいるシーにあたってもいいのかよと、僅かに舌打ちしながら、銃弾を避ける為に急旋回する。それにシーは悲鳴を上げ、目が回る感覚を覚えた。
顔すれすれの所を銃弾がすり抜けていく。ぞっと、背中に冷たいものが流れるのを感じながら、羽男は翼を羽ばたいた。
「シーちゃんを返しなさいぃぃぃぃぃぃっ!!」
が、その瞬間、上から甲高い声が響き、羽男はぎょっとした。上からの猛襲に咄嗟に対応が出来ず、僅かに身体をずらす事で、直撃を避けた。
槙宮はシーを取り戻そうとすれ違いざまに腕を伸ばしたが、すんでの所で届かなかった。
それに舌打ちしながら、急降下した箒の向きを立て直し、地面すれすれで浮上した。
空中で体勢を崩した羽男は、ぐるぐると旋回して、やがて止まる。あまりの旋回速度に、腕の中のシーもまた、目を回している。
だが、それだけ大きく体勢を崩せば、再び動き出すには少し時間がかかる。その瞬間を待っていたかのように、赤く光るラフィオの瞳が羽男を捕らえた。
その両手に持った銃が炎を帯びるように赤い光を灯す。狙いをすまし、銃口を向ける冷淡な瞳のラフィオの姿に、羽男は顔を青ざめさせた。
「……マガジン装填。『焔』」
ラフィオが叫ぶと同時に二丁の銃口から魔力を帯びた火炎が吹き出した。
それはごおと音を立てて、羽男の漆黒の翼に直撃した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
炎が直撃し、羽男の翼が炎上する。あまりの熱さに羽男は悶絶して、空中でのたうち回り、腕に捕まえていたシーを手放した。
その瞬間、シーの身体は宙に放り出される形となり、ふわりとした浮遊感が彼女を包んだ。
「……あ……き、きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
落下を始めたシーは悲鳴を上げる。地面がみるみるうちに迫ってくる。この高さから落ちれば確実にあの世行きだ。走馬燈のようなものが頭を駆けめぐるのを感じながら、シーはぎゅっと目をつぶった。
「シーっ!!」
だが、その瞬間、がしっと誰かがシーの腕を捕まえた。それにはっとして、シーは腕の主を見上げた。
ラフィオが屋根伝いに駆け寄って、彼女の腕を掴んだのだ。
がくんっと、宙ぶらりんの状態でぶら下がる形となったシーは、必死に引き上げようとしているラフィオの姿を見た。先程までの冷たい瞳は消え去り、いつもの勝ち気な彼の瞳がそこにあった。
シーの腕を掴み、持ち上げようとしているラフィオだったが、体格が明らかに違いすぎる。
彼の小さい体ではシーを引き上げる事は無茶に等しい。このままではラフィオまでも落ちてしまう。ずるずると、彼の身体が屋根の端へと滑っていく。
「……っ、ダメ、ラフィオ君まで落ちちゃうっ」
「うるせー、黙ってろっ」
シーの言葉を一蹴して、ラフィオは歯を食いしばった。が、やはり重力に逆らえないのか、だんだんと、彼の身体が屋根からずり落ちてしまう。屋根にしがみつくように掴んだ彼の指が、がりりと音を立てて屋根を引っ掻いた。
「………っくっそ………」
僅かに悔しそうに顔を歪めて、彼の身体がついに屋根からずり落ちる。咄嗟にラフィオが屋根の縁に掴まって持ちこたえようとしたのだが、流石に二人分の体重を支える事が出来きなかったのか、ずるりと手が縁から滑り落ちた。
再び支えを失った身体が、地面に向かって落下を始める。今度こそダメだと、諦めかけたその瞬間――
「シィィィィィィィィちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」
槙宮が声を張り上げ、彼女の名を叫んだ。
急上昇してくる槙宮の姿を確認したラフィオは、空中でシーの身体を引き寄せると、まるでお姫様だっこをするように彼女の身体を抱きしめた。それにシーは驚き、ラフィオを見た。
槙宮は二人の落下してくる位置を計算し、その下へと潜り込む。ラフィオは僅かに空中で体制を立て直しながら、槙宮の乗る箒の後ろへと着地した。
二人分の体重が増えた為に、ぶるんっと箒が振動する。それに僅かに体勢を崩したが、何とか二人を受け止める事が出来た。落下感が遠のいた事に安堵したシーは、胸に溜まっていた息を吐き出した。
心臓がばくばくと鼓動を早めている事に今更気がついて、遠ざかった死の感覚に、心から安堵を覚えた。
ラフィオは抱いていたシーを槙宮の後ろに座らせると、自らはその箒から無造作に飛び降りた。それにシーは驚き、彼を捕まえようと手を伸ばしたのだが、すんでの所でその手は虚空を掴む事となった。
落下したラフィオは焦る事なく、近くの木の枝に掴まると、まるで猿のようにひょいひょいと下に降りていった。そのまま地面に辿り着くと、彼は何処かへと走り去っていく。どうやら、先に落ちた羽男を捕まえに行ったらしい。
「大丈夫ですよ、あれは。身軽な子ですから」
シーの杞憂に気がついたのか、槙宮はくすりと笑ってそう言った。その言葉に僅かに安堵したのか、固まっていた表情をほぐした。
「さ、私たちも降りますよ」
「は、はい」
槙宮の言葉にシーは僅かに身構えたが、彼女の箒さばきは穏やかなもので、不快さを感じずにすんだ。
下に降りると、撃ち落とされた羽男が地面に転がっていた。どうやら、まだ生きているようで、恨めしげな顔でこちらを睨み付けてきた。
既に動く事は敵わないようで、地面に突っ伏したままの羽男を、いつの間にか屋敷から出てきたミュウラーが冷ややかな瞳で見下ろしている。
ラフィオもまた既に到着しており、手に持った銃をもてあそびながら、羽男を見下ろしていた。
「よっと、お待たせしましたー」
と、その瞬間、上から間延びした穏やかな声が振って来ると同時に、大の男五人が羽男の上に落ちてきた。
どさどさどさっと芋虫のように縄でぐるぐる巻きにされたそれが落とされ、一番下に潰された羽男はあまりの衝撃にぐえっと蛙が潰されたかのような声を上げた。
既に捕縛されていた他の悪魔達のようだ。屋根の上から梅丸もまた、ひらりと飛び降りて、スタンッと音を立てて、綺麗に地面に着地した。
二階以上の高さから落ちて、無傷である彼の様子に、彼もまた人間ではないのだと今更ながらにシーは唖然とした。
槙宮も出会った当初に見せたあの怪力ぶりからして人ではなさそうだし、ミュウラーもまた、周りの話からすると人ではないようだ。
悪魔が住む屋敷だというあの中傷は本当の事だったのかと、今更ながらに納得した。
「……これで全部か?」
「そうみたいですよ」
ぱんぱんっと、埃を払うように手を叩きながら、梅丸は上にはもう何もいなかったと伝える。それにミュウラーはふむと、顎に手を当てた。
「……くっそ、番犬の分際で……」
羽男は憎々しげにミュウラーを見上げ、呪詛を口にするように恨みがましい声を上げる。それにミュウラーはふんっと鼻で嘲笑し、
「我が屋敷を蹂躙した分際で、命があるだけ幸いだと思え。貴様等には向こうで正式な罰が下されるだろう。ここで死んでいた方がましだと思えるような罰がな」
と、腕を組みながら威圧するような瞳で、羽男等を見下ろした。その言葉に羽男はぎりりと悔しげに歯ぎしりしたようだった。
ミュウラーはそんな彼らの様子に興味などないらしく、ふいっと視線を虚空へと投げた。
何をするのだろうと、シーが見守っていると、ミュウラーはすっと片手を前に差し出して、何事か呟き始めた。
その言葉は異国の言葉のようで、シーには理解する事は出来なかった。
独特な発音のそれは、まるで歌っているかのような印象を受ける。
詠唱を続ける彼の身体から、緩やかに魔力が溢れ出す。それはまるで黒い炎のようで、ゆらゆらと揺れながら、空中を切り裂いて巨大な魔法陣を描き出した。
その魔法陣を目の当たりにした羽男等は、まるでこの世界が終焉を迎えたかのような、なんとも表現しにくい表情で凍り付いた。だが、それが恐怖の対象なのだという事ははっきりとわかった。
あれだけ、ミュウラー達を恨みがましく睨んでいたはずの彼らだったが、恐怖に縮こまり先程までの威勢は跡形もなく消えている。
それ程までに、この魔法陣が示す意味は恐ろしいものらしい。
「……誘え。暗き闇の世界へ。あるべき場所へ」
ミュウラーはすっと目を細め、最後の言葉を紡いだ。その瞬間、魔法陣が空間を呑み込み始め、羽男達が悲鳴を上げる。
ごおっと風が巻き起こり、空気が呑み込まれていくが、対象とされていないシー達には何ら影響を与えなかった。
「い、いやだぁ、あそこには戻りたくないっ!!」
「たすけてっ……」
「ゆ、ゆるしてくれぇぇっ」
男達は恐怖に引きつった声で叫ぶが、開いた魔法陣は全てを呑み込むまで閉じる事はない。
引力に引き寄せられるように、男達の身体が魔法陣へと引き寄せられていく。
地面にしがみつき、必死に逃れようとする男達。だが、魔法陣は容赦なく、そんな彼らを呑み込もうと口を開いている。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ」
男達の一人がついに力尽きて、魔法陣に吸い込まれる。その顔はまるでこれから死にに行くかのような悲壮な顔だった。
それにシーは恐怖を感じ、隣の槙宮の手をぎゅっと握った。そんな彼女の様子に、槙宮は目を細め、安心させるようにその温かい手で手を握り替えした。
次々に男達が魔法陣に吸い込まれ、闇の中へと消えていく。どの顔も、恐怖に浸食されたような形相で、あの魔法陣の先には何が待ち構えているのだろうと、シーは恐怖を覚えた。
「……くそっ……絶対戻るものか……」
最後に残った羽男は、がしっとミュウラーの足を掴み、必死の形相で無駄な抵抗を続けた。
そんな彼の様子を冷たい瞳で見下ろしながら、ミュウラーは無言のまま彼を侮蔑した。
その瞳は、彼のプライドを著しく傷つけたようで、羽男は逆上してミュウラーを睨み上げた。
「……っ、そんな眼で……俺を見るなあぁぁぁぁぁぁっ!!」
声を荒げ、血走った目でミュウラーを睨みつけると、ぎらりとした爪を振りかざして殴りかかろうとした。
だが、その爪はミュウラーに届くよりも先に、一条の閃光に打ち抜かれた。
「……あ………あぁ……」
手のひらに大きな風穴が開けられ、一瞬の間をおいて、赤黒い血が溢れ出す。
何事が起こったのか、理解出来なかった羽男だったが、腕を走り抜ける鋭い痛みに身体を震わせ、奇声のような悲鳴を上げた。
腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべて、羽男は声の限りに絶叫する。その無様な彼の様子を、銃口を構えたままのラフィオが冷たい瞳で見据えていた。
「……罪には罰を」
ミュウラーは苦悶する羽男を冷たく見据えると、とんっとその肩を押した。
その瞬間、魔法陣が今まで以上の吸引力を発揮し、羽男の身体が地面から引き剥がされた。
「……貴様等……必ず、殺してやる、殺してやるからなあぁぁぁぁぁぁっ」
絶望に染まるその顔に怒りの炎を宿しながら、羽男は叫びながら魔法陣へと吸い込まれていった。
最後の一人を吸い込んだ事で魔法陣は役目を終えたのか、その口をいとも簡単に閉ざすと、やがて黒い光を粒子へと変えて、霧散した。
何もなくなった虚空は元の次元へと戻り、何事もなかったかのように、夜空には月が輝いていた。
それにラフィオは構えていた銃を下ろし、ふぅっと溜息をつきながら、ぐっと伸びをした。
「……たくっ、妙な連中の所為で、とんだ時間くっちまったぜ」
こきこきと首を回しながら、ラフィオは心底げんなりした顔で呟く。その言葉に梅丸ははっとした表情になり、
「そういえば、ご飯、また温め直しだぁ」
と、料理を放置してきた事を思い出し、しまったなぁと呟いた。それにラフィオはえーっと嫌そうな顔を浮かべた。どうやら、相当お腹が減っているらしい。
その様子に、ミュウラーは呆れたような瞳をラフィオに向けた。
「全く、これだから小猿は。食う寝る遊ぶ以外に頭にないのか?」
「え?あるじゃん。あんたに嫌がらせする事」
「質が悪いな」
「当たり前じゃん」
何を今更と、ふんぞり返るラフィオの様子に、ぴきっとミュウラーの頬に青筋が浮かんだようだった。
そんな不毛な会話を続けている彼らの様子を少し遠巻きに見ていたシーは、隣の槙宮を見上げ、恐る恐る握っていた手を離した。
その様子に、槙宮は僅かに悲しそうな表情で微笑み、その手を離した。そんな槙宮の顔を見たシーは、ずきりと胸が痛む思いがした。
安全な状況となった事で、ようやく冷静な判断が出来るようになった。
シーは現状を理解し、自分以外の存在が人外の生き物である事実を受け入れ始めていた。
だが、昼間見た彼らは人と何ら違いは感じられなかった。それなのに、人間ではないなんて……と、怯えてしまう自分に少し悲しい気持ちになった。
そんな彼女の様子に気がついたのか、ミュウラーがその金色の瞳で彼女を見据えた。
それにシーはぎくりとして、僅かに俯いた。
「……すまないな、シー。こんな形で巻き込む事となって」
ミュウラーは感情のない表情のまま、静かに謝罪を口にする。その言葉にシーは驚き、いいえと、小さな声で首を振った。辺りが急に静まり返り、風が緩やかにすり抜けていく。
「……あ、貴方達は……一体何者なんですか?」
僅かに震える声で、シーは渦巻いていた疑問を口にする。
その言葉にミュウラーは沈黙し、僅かに顔を俯かせた。まるで応える事を躊躇っているかのようだ。が、やがて彼は顔を上げ、月を背後に背負ったまま、月と同じ金色の瞳でシーをまっすぐに見据えた。
「……闇に属する者。……人の間では悪魔や魔族と呼ばれる存在だ」
凛とした声で、ミュウラーは自らの正体を隠すことなく告白する。
闇に属する者……そう告げられ、想像していた通りの返答だと、シーは僅かに俯いた。
「私は、魔界の王より、この世界に干渉する同族達の捕獲と駆除を仰せつかっている。人に危害を与えようとする者達を捕縛し、あるべき場所へと送還するのが、私の役目だ」
「……………………」
先程の光景を思い返し、ぶるりと僅かに身体が震えた。あれが、送還の儀式だったのかと、今更ながらに納得し、あんな恐ろしいものなのかと、シーは僅かに恐怖を抱いた。
「まっきーさんや、梅さん、ラフィオ君は?」
シーは更に彼らの正体を知ろうと、疑問を投げかける。ミュウラーは彼女の問いに答えるように一人一人、視線を向けた。
「槙宮と梅丸は私の補佐だ。槙宮は心を持った“自動人形”、梅丸は宝石を喰らい、魔力を高める“宝石喰らい”だ」
ミュウラーの説明を受けたシーは、槙宮と梅丸へと視線を向けた。その瞳を受けた二人は苦笑にも似た表情を浮かべて、シーに笑いかけた。
シーはそんな二人を見つめた後、最後の一人へと視線を向けた。
その瞳を受けたラフィオは、僅かに顔をしかめると、ふぃっと瞳をそらした。
「……この小猿は、手違いで私の使い魔となった元人間の子供だ」
「って、ちょっと待て、手違い扱いかよっ!!」
ミュウラーの説明に咄嗟に反応し、ラフィオが声を上げてつっこみを入れる。その言葉にミュウラーは聞こえないというように、何事もなかったように明後日の方向へと視線を投げている。
「くっそ、誰の所為で死んだと思ってんだよっ!!」
「しらんな。そんな昔の話」
「なんだとっ!!いつも俺をこき使いやがって!!たまには自分で戦えってんだっ!!」
「そんな野蛮な事はお前一人で十分だろう。私がわざわざ手を下すまでもない」
「なにぃぃぃぃぃっ!!」
ぎゃーぎゃーと再び言い争いを始めた二人の様子に、シーはポカンとして、二人を見つめた。二人はそんなシーにはお構いなしで、口げんかを続けている。
最初に感じた冷たい印象とはかけ離れているミュウラーの様子に、何だか人間臭さを感じて、自分は何て下らない事にこだわっていたんだろうと、笑いたくなった。
人間だろうと、悪魔だろうと、同じ生き物だ。それに、先程自分を必死で助け出してくれた彼らに、悪意など感じられなかった。
闇の眷属だからなんだ。悪魔だから全て悪だとでもいうのだろうか。
周りからの固定観念に影響されすぎていた自分に気がついて、シーは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
怖がる必要なんてないんだと、シーは自分の中で渦巻いていた恐怖心を振り払った。
全ての存在に対して、恐怖心がなくなった訳ではない。だが、少なくとも、彼らの存在を怖いと思う事はなくなった。
シーはくすりと口元に笑みを浮かべ、沈んでいたその顔に笑顔を取り戻した。いまだに口げんかを続ける二人の姿に、くすくすと笑いがこみ上げてきて、肩を震わせて笑いをこらえる。
そんなシーの様子にはっとしたように、口げんかしていた二人がシーへと視線を向けた。
「……怖がってごめんなさい。もう大丈夫」
くすくすと笑いながら、シーは笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭いながら周りを見回した。
彼女らしい意志の強そうな青い瞳がまっすぐと彼らを見据え、迷いが晴れた事を明確に伝えていた。その様子に、ミュウラーは僅かに眼を細め、
「……この仕事を降りるなら今のうちだぞ?またこういった事態がいつ起こるかわからない。その覚悟があるのなら、我々は歓迎しよう」
と、まるで最終勧告でもするかのように、シーに告げる。こんな仕事をしている自分達は同族達の恨みを買いやすい。先程のように襲撃される事もしばしばだ。勿論、そんなものに屈する彼らではないが、場合によってはその騒動の所為で、取り返しがつかない事になるという事も十分にあり得るのだ。ミュウラーはそれを危惧しているのだろう。
シーを心配するかのような色を含んでいるミュウラーのその瞳を見つめ、シーはにへらっと気の抜けた笑顔を浮かべた。
「私、どじだから雇って貰えるとこ、少ないんです。こんな私で良ければ、使って下さい」
ぺこりと頭を下げなから、シーははっきりと継続を宣言した。気の抜けたようなそんな笑顔で笑いかけてくる彼女の様子に、一瞬面食らったミュウラーだったが、彼女らしいなと、微かに口元に笑みが灯った。
その決断がどれだけ危険なものであるか、シーは理解してるのだろうかと、一瞬不安になったけれど、彼女の瞳には迷いはないようで、すんだ青い瞳がまっすぐに自分を見つめてくる。
こんなまっすぐな目の人間を見るのは随分久し振りだなと、僅かに苦笑しながら、彼女を選んで正解だったと、密かに自分の決断を誇った。
「ならば、正式に歓迎しよう。シー・ブリーズ。……これから、よろしく頼む」
「はい、このシーちゃんにお任せあれです!!」
ミュウラーは眼を細め、白い手袋を取って彼女へと右手を差し出す。その右手をしっかりと握りかえし、シーは元気いっぱい笑顔を浮かべた。
正式に屋敷の一員となった彼女を祝福するように、槙宮と梅丸が穏やかな顔で微笑んでいる。ラフィオは、うるさいのが増えたなっと、僅かに顔をしかめて見せたが、それが本心からの言葉ではない事は明らかだった。
そんな彼らを祝福するように、夜空の月は静かに輝いていた。



こうして、彼女のこの屋敷での生活が、本当に始まったのであった。



とある時代、とある場所での、そんな物語は人知れず幕を開けた……のかもしれない。



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